結局と言うべきか、当たり前にと言うべきか。
犯人側からの要求は到底、受け入れられるような物ではなかった。
そんなところなのだろうなと、少なからず予測していた身としては大して感慨という物もない。相手の反応よりもスクアーロがウズウズしているのが気になったくらいだった。その時の今にも暴れ出しそうな様子に、ほんの少し笑うと足を踏まれたりもして。
何だか図太くなったなぁと自分自身に苦笑をしたのが三十分前くらい。
そして現状。
ディーノはエントランスの二階部分から、階段を下りた先……一階部分にいる銀色の鮫に声をかけた。
「なー、あとどのくらいで終わりそう?」
「さてな。相手がどんだけの数を用意してるか分からねぇからなぁ」
「そっか…それもそうか」
「テメェは何か知らねぇのかよ」
「残念だけど。犯人は合ったこともない誰かだったし」
肩をすくめて答えると、そうか、と返されて視線は別の方向に向けられた。誰もいないがドアのある方向だったから、出てくるかも知れない…というか、今にも出てきそうなのが気配で分かる相手を待ちかまえているのだろう。
…正直、何かできないかなぁ、と思ってはいる。見ているだけで戦うのを全て任せっきりというのは、たとえ相手が初めからそのつもりで付いてきてくれていたのだとしても、やや心苦しい。
しかし自分が『へなちょこ』であるのは事実であって。
何かやろうとしたら絶対に足手まといになる。
…それは少し、遠慮したい。
「ていうかなー……初めからそのつもりって…つまり心配してくれてたって事なのかなー…いや、見捨てたら寝覚めが悪いからっていうだけ、かも」
どっちにしろ気にかけてくれたというのは事実だから、嬉しいと言えば嬉しいかも知れない。が、これではあまりに頼りないなぁとディーノはとほほとため息を吐いた。
やっぱり、もう少ししっかりした方が良いのだろうか。
何だかんだと言って、自分はやはり彼に対して『友人』として認められるくらいにはなりたいなぁと、思っていたりする。それは自分が望んでいる最低ラインだけれど、今はそれよりも多分下。一緒にいるのは何となくとか、見てられないとか放っておけないとか、そういうなし崩しの保護者のような感情故なのだろうと、自分は見ている。
そういう上下の関係ではなく、出来れば対等に。
そのためには…どうなのだろう。何をすれば良いのだろう。
同じステージに立つためには。
「…考えてもなー」
答えなんて出てこないと息を吐いて、ついに二十人斬りを達成したスクアーロを見やる。物凄く活き活きとしていて、戦うためだけに生まれてきたと言われてもきっと驚かないだろうと断言できる彼を。
果たして、彼は何をどうしたら認めてくれるだろう。
もっとしっかりできれば、認めて貰えるのだろうか。
それも…何か違うような気がする。しっかりしたら、むしろ嬉々として離れていってしまうのではないだろうか。それは対等になった証かも知れないが、我が儘を言わせて貰うならずっと一緒が良い。
さて、それを叶えるためには。
……考え続けていたら、何だか眠くなってきた。
「眠っちゃおうかなぁ…」
終わったら起こしてくれるだろう。物凄く手荒な方法かも知れないけれど。
それでも良いじゃないかと目を閉じかけたところでふっと、今までとは違う気配を感じた。それは今までのむき出しの物とは違う気配。
思わずスクアーロの方を見るけれど、彼が気付いているかどうかは判然としない。
分からないのなら…と、ディーノは手すりにつかまって身を乗り出して叫んだ。
どちらか分からないのなら、どちらでも問題がないように言っておけばいい。
「スクアーロ!何かさっきまでと違う敵…が…っ!?」
…のだがしかし、何をやっても格好が付かないのが自分。
手すりから身を乗り出したせいでバランスが崩れ、そのまま一回の床に墜落した。
もちろん、顔から。
ぐしゃ、という音が響く。
あと…顔が本当に痛い。
「たた…」
「……」
「……」
それをスクアーロと、現れた先ほどの人々とは比べようのない強い誰かは呆れたように、呆然としたようにそれぞれ見ていて、その差がハッキリと結果に至った。
つまり呆然とした相手よりは呆れていた彼の方が直ぐに動けた、ということ。
難無く放られた剣に喉を貫かれ、その相手は絶命した。
ラスボスにしては呆気ない最後だった。
ということで、誘拐事件は鮫の力で解決しました。お疲れ様。