あまり人は殺さない方が良いと言えば、途端に不機嫌そうな顔になる彼。
きっと彼から見れば、自分は甘くて甘くて仕方がない、どうしようもない『へなちょこ』なのだろうということは、理解している。
ただ、自分から見て。
彼は、何も入っていない容器のように見えることもあるのだけれど。
果たしてそれを彼は知っているだろうか?
「…なぁ、どうしてスクアーロは強くなりたいんだよ」
「…は?」
「だってほら、強くなりたいってのって理由があったりするだろ?誰かを守りたいとか、負けたくないからだとか、いつの間にかとか。スクアーロはどうして?」
突然すぎる質問に唖然としていた様子のスクアーロだったが、直ぐに我に返ったようでいつも通りに「強くなりたかったからだぁ」と言った。
それが、理由か。
確かにそれは理由だろう。しかし、それはどのような『理由』だろうか。
強くなるために強くなると言う行為は、途中でむなしさを生まないのだろうか。少なくとも自分には無理だろうなとディーノは思う。強くなるために強くなる、それは永遠のように続く行程だ。終わりが無いし、終わることが出来ない。
満たされない行為を延々と続けているように、見える。
だからこそ『空の容器』。
何かを入れようとしても入らない、容器としての役目を果たさない容器。役目を果たすようになったとしたら、そは受け入れるに値する『何か』を見つけたときだろう、が。
自分はどうだろうと自問したことがある。
どうやら、自分は自分で思っている以上にスクアーロの事が気に入っているらしかった。何度かの邂逅で悪い相手ではないと知ったからだろうか。それにしても随分と気にかけてるなと苦笑もしたくなる。相手の方はというと、全くそうではないけれど。
まぁ、思考の結果は『不可』だったが。
甘い蜂蜜は彼の好みではないだろうから。
どうせ入るなら、それは。
「赤色とかそういう系だよな…」
血とか内臓の色とかそんな感じ。
血の赤だと納得して頷いていると、どこか呆れたようなスクアーロの視線と出会った。
「テメェさっきから何言ってんだぁ…?」
「んー、独り言?」
「なら心の中で呟きやがれ。一々口にしてんじゃねぇよ」
「いや、口にした方が考えが纏まるからさ」
そう言うと、彼は口を閉ざした。もしかしたら心当たりがあるのかも知れない。
「ところでスクアーロ、何か食べたい物って有る?」
「唐突だなテメェ…」
「ま、ボンボンだからって事で」
「自分で言うなや」
「いや、だってさ?スクアーロにとんでもなくたくさん言われてるからもう、自分で言っても何も思えないというか。…慣れ?」
つまりはそういうことである。
嫌な慣れだなぁと思いつつ、とりあえず答えを促してみることにする。
「で、何が食べたい?」
「何も」
「じゃあスパゲッティ食いに行こうぜ。決定な」
「強制たぁ良い度胸じゃねぇか…?」
その目に険呑な光が灯ったのを見て、ディーノは少しばかりたじろいだ。この光だけはどうにも慣れそうにはない。慣れてしまったとしたら、それは恐らく。
それは、ぬるま湯から出るときだろう。
ふっと浮かんだその考えを慌てて消して、さらに慌てて言葉を紡ぐ。
「いやさ、丁度昼時だし腹が減ったなーって思って」
「じゃあテメェだけで行け。生憎と俺は腹が減ってねぇんだぁ」
「一人で食べるのは遠慮したいんだけど」
「…本ッ当にガキだなテメェは」
「えへへ」
「褒めてねぇよ。何喜んでんだ」
何となく笑ってみたらつっこまれた。少し悲しい。
けれどやっぱり嬉しくて、笑みは止まらない。
よく考えると、当初と比べるとこれはとてつもない進歩なのであった。最初にあったときと比べると遙かに色々な反応をしてくれているし、やはりそういうのは嬉しいものであるわけであって。
「で、俺おすすめの店あるんだけど」
「人の話を…いや、もう良い。てか連れてくってんなら奢れ」
「そのくらいなら別に良いけど?」
「…このボンボン」
「もうその言葉は効かないよ?」
そしてこの後、スクアーロはディーノの世話をしつつ割り勘で昼食を食べる気がする。