かなり怒ってるるなぁと、フランは他人事のように直ぐ傍から感じられる気配について考えていた。場合によっては自分の方にも火の粉は降りかかるのだけれど、そこはまぁ、主に某鮫先輩でも盾にして逃げればいいだろう、きっと。ダメならその役割は堕王子にやってもらっても可。
「…おいフラン」
「何ですかベル先輩」
「お前今、何かすっげぇ生意気なこと考えなかった?」
「気のせいですよ。ミーほど謙虚な後輩はいませんからー」
「何その棒読み口調。かなり気に入らないんだけど……ねぇ、刺して良い?良いよね?」
「止めとけぇ」
放っておいたら実行に移すとでも思ったのだろうし実際そうだろうが、ともかく、見かねた様子のスクアーロが座席にもたれかかって口を開いた。一見すると自分を庇ってくれたようにも見えるこの光景かもしれないが、実は狭い車内で暴れられてはたまらないという思い故の言葉だろう。
あぁ、やっぱり自分は世界で一番不憫な新人だ。
「フラン、その考えは僕から見ても大分何かが違う気がするけど」
「マーモン先輩までそういうことを言うんですかー?心外ですー」
ていうか今、心読まれ……まぁ、相手はアルコバレーノなのでそれもアリなのかもしれない。だとしたら何て犯則技だろう。
不公平だと考えていると、呆れたような視線が向けられた。
「顔にでかでかと書いてあるんだよ」
「そうですかー。ミーとしたことが失態ですねー」
「ま、」
と、赤ん坊から子供となっている彼は、チラリとヴァリアーがボス……つまりはザンザスの方へと視線をやった。それから、呆れたような表情のままにため息を吐く。
「あっちの方が、分かりやすさで言ったら上だけど」
「……ですねー」
自分たちの上司は今、酷く苛ついているようだった。それは恐らく、この休暇が沢田綱吉の手による半ば強制的な物だったからだろう。仕事も何もかも持ってくることは禁止されている休暇。しかも連れて行くメンバーとして自分たちがちゃんと指名されているという徹底ぶりで。まだまだ書類が残っていた様子なので、こんな事をされた事に対してのその苛立ちも何となく分かる。
本来ならば断るどころかボンゴレ本部を半壊させられても文句は言えなかっただろうそれだが、流石に任務扱いにされた上に死印炎の灯った書類で回されてきてはどうしようもなかったらしい。あれを自分が渡したときの様子と言ったら、本当に怒り心頭という感じで、手に持っていた筆記具がぽきりと折れたくらいだった。
たかだか仕事が出来ないくらいで何でそんなに怒るのだろうと、フランとしては首を傾げざるを得ないのだが……そこは価値観の差だとかがあるのだろう。あとはボンゴレに対する思い、とかかもしれない。
そこまで思って、あぁ、ともう一つ思い出す。
ザンザスが苛立っている理由のもう一つ。
余計なのが付いてきたからだろう。
「ねぇ堕王子、旅館にはいつ着くんだい?」
「エース君、俺は堕王子じゃなくて王子なんだけど」
「だったら僕もエース君、なんて名前じゃないけどね」
「良いじゃんエースなんだし」
「知らないよ。僕には雲雀恭弥っていう名前があるんだから」
一人はボンゴレ雲の守護者で。
「…スクアーロ」
「何だぁ?」
「私たち……付いてきても良かった?」
「…一人二人増えてもこうなりゃ変わらねぇだろうしなぁ」
「……そっか」
もう一人はこれまたボンゴレの霧の守護者。
どこからかこの任務扱いの休暇のことを聞きつけたらしい自由すぎる二人は、何故だか旅の一向に加わった。理由なんて本当に知らないから『何故だか』。そもそも知る気もないからどうだって良いし。
ただ、分かることが一つ。
それは、スクアーロは『一人二人増えても変わらない』と言うのだが、それは絶対に嘘だと言うことだ。
でなければ、ここまでザンザスの機嫌も悪くならないだろうし。
困った物だなとか思いながら、手元にあった菓子をつまむ。
「雲の守護者じゃないですけど、確かにいつになったら着くんでしょう」
「さぁ。でももう少しだとは思うよ?」
「そうなんですかー?」
「多分だってば。時間帯的にはそろそろだと思っただけ」
「…チッ」
「聞こえてるよ。文句があるなら自分で調べておけば良かったじゃない」
むぅっとした表情でマーモンがこちらを見上げたとき。
キィッと音を立てて、車が止まった……着いたらしい。
ザンザスは仕事邪魔されたら酷く怒る人だよね、きっと。