ざざぁん、と波の音が耳に届く。涼しげな音だ。
ここは海辺。季節は夏。
そんな中、政宗は木陰の下でグッタリと倒れ寝込んでいた。寝込む、というよりも木にもたれかかっているという方が正しいのだが。
燦々と太陽が降り注いでいる浜辺を見て、呟く。
「有り得ねぇ……この暑さは有り得ねぇよ…」
「政宗、具合はどうだ？」
「おう…Thanks 元就」
パタパタと団扇で風を送ってくれる元就に感謝の意を述べ、海の方で騒いでいる若干名の方を見る。彼らは政宗のように、暑さにやられて倒れてしまうような事はないらしい。育った場所の違いだろうか、やはり。
ともかく、北国で育った政宗に、この四国の暑さはどうしてもやりきれなかった。
元親からの『四国に来ねぇ？』という簡素な誘いに乗るんじゃなかったと後悔しながら、まだぼうっとしている頭で砂浜を見る。
「いや…てーか本気で有り得ねぇ…」
「政宗、先ほどからその言葉しか繰り返しておらぬぞ」
「有り得ねぇんだから仕方ねぇだろ…マジあちぃ」
「奥州と四国では温度差がありすぎよう」
「…考えておくべきだったぜ…」
「うむ。だが、考えつかなかったことはそなたの非にはなるまい」
「されてたまるかよ」
奥州と四国の気候が違うことは想像していた。だから多少は気にして準備もしてきた。のだが、想像以上に四国は暑かった。それだけの事である。元就もそれは分かるので言わないでくれるのだろう。
今度、元親を強制的にでも冬の奥州に連れてきて雪の上に放り出してやろうかと考えながら、ずっと風を送ってくれていた元就に、もう良いという意図が伝わるようにと団扇を少しだけ押した。
政宗の意図をくみ取ってあおぐのを止めた元就は、そのまま政宗の隣に収まった。いついもなら小十郎がいるような場所だ。だが今、彼はいない。自分が留守にしている間の国のことは彼に任せてきた。呆れながらもちゃんと送り出してくれたのだし、今回はこちらに来ても問題なかったのだろうなと政宗は結論づけている。
「にしてもアイツら、よく遊べるぜ…」
「確かに。あやつらはもはや人間では無いのであろう」
「人間じゃねぇってのは言い過ぎとは思うけどな…そりゃ有り得そうな話じゃねぇか」
「ただ、我が酷く不思議に思うのはそちらではない」
「てーと？」
「そなたと、真田幸村が来ることは分かっておったこと。そうなればかの忍びがやって来るのも予測できる。だがな、政宗」
ちら、と視線を浜辺で騒ぐ一団のうち一人に向けて、元就は言った。
「何故、風来坊までおるのだ」
「…成り行き？」
「疑問型か」
「アイツ、俺の気付かないうちにいつの間にかいやがったから分かんねぇんだよ、実際」
そう。前田慶次は政宗が休んでいる間にいつの間にか、幸村と二人で行っていた道中に入り込んでいたのである。どうやら幸村が連れてきてしまったらしいが、その詳細は二人に聞いても全く分からずじまいだった。多分だが、二人ともが二人とも、その詳細を見事に忘れているに違いない。
というわけで、この疑問は迷宮入りする他ないのである。
「ところでアンタは大丈夫なのか？」
「我か？我は日輪を日々崇め湛え祀っておるからな、日輪によって倒れることなどそう滅多に有ることではな…」
「そんな話じゃねぇよ」
そこは予想して然るべき箇所だ。
「アンタの国の政治は放っておいても良いのかって訊いてんだ」
「安心せよ。隣国故に何かあれば直ぐに戻ることが出来る。それに…」
「それに？」
「出るときによくよく聞かせたからな」
「誰に、何を」
「駒どもに、我がおらぬ間に問題を起こしたら打ち首だ、と」
「…そりゃぁ…」
頑張るしかないではないか。元就はやる、といったら間違いなくやる。
憐れ兵士。この場合は政治に重きを置く重臣も同様か。
もう毎度のことなのでそれ程驚かなくなってしまった自分をどうかと思いながら、政宗は改めて日の当たっている砂浜を見る。
「…出てぇな」
「悪いが政宗、我にはそれを許可することは出来ぬぞ」
「だろーねぇ」
「その通り。今一度出れば再び倒れるであろう」
「…それは遠慮させてもらうぜ」
何気に伊達さんと瀬戸内組が一緒にいることが多いですよね。何でだろうか。好きだからだろうけど。
とりあえず、この話の前後が書けたら良いなぁとか思ってますが、予定は未定。
