解霜雨

雨シリーズ以外と長いです。
とりあえずもう新しく誰も出しません。纏めに向けて一直線です。

---

　ぽつ、と降り出した雨に顔を上げた。
　見れば、空は暗く厚い雲に覆われていて、成る程、雨も降るはずだと、それでも足を居城へと向けずに街の外れを歩く。
　今は、一人が良い。
　何故だか今日は、運が良いのか悪いのかは知らないが知人によく会った。それが迷惑だったわけでもなく、むしろ今回ばかりは、という思いはあったが、それでもやはり一人の時間という物は、欲しかった。
　ふらりと立ち寄る風来坊も。
　宿敵の若き虎も。
　飄々とした忍も。
　昔から傍にいる右目も。
　気遣うことになれていない申し子も。
　いつも明るい鬼も。
　誰も傍に寄せずに、誰にも見られずに、誰にも気遣わせずに、ただただ一人で考える時間が欲しかったのだ。
　この問題は、誰の手も借りることは出来ない。
　ただ一人…いや、二人。
　自分と、母との問題だ。
　……いっそ、自分がいなくなればあの人は手放しで喜ぶのだろうか。しかし、それはあってはならないことだ。この身が『奥州筆頭』であれば尚更に。それをして、家臣たちの信頼を裏切るわけにはいかない。奥州の存在を危ぶませるわけにもいかない。
　母には悪いが、自分は存在するほかに無いのだ。
　それでも、あの人は自分を忌むのだろう。
　醜い子、と。
「…慣れていたハズだったんだけどな」
　久方ぶりに言われたからか、近頃が楽しく暖かかったからか、その言葉は今まで以上に胸に刺さった。痛い、のではない。辛かった。
　もう、一人しかいない親に未だに認めてもらえないという事実が。
　ざぁざぁと雨が降る音を耳にしながら、くるりと足を別の方向へと向ける。向かうは居城だ。これ以上雨に打たれては風邪を引くかもしれない。そこまで柔ではないつもりだが、やはり用心には越したことはないだろう。
　城に着くまでには、きっといつも通りの結論が出ている事だし。
　街外れから街の中へ。
「よ、政宗」
「そなた…何故この雨の中、傘もささずに歩いておるのだ」
　そこで会ったのは元親と元就だった。
　傘をさしていた二人の内、元親の方の傘の下に半ば強制的に引き込まれ、元就からの小言を耳にしながら城下町を歩く。小十郎ではない誰かからの小言というのは何だか新鮮で、思わず途中で笑ったら足を踏まれた。真面目に聞けと言うことか。
　そんな調子で城の門へと辿り着くと、そこには小十郎の姿があった。
　一瞬だけ瀬戸内の二人に鋭い視線を送った後、右目はこそりと自分の耳元に口を寄せた。
「義姫は雨が降る前に去りました」
　果たして、それは残念なのか幸運なのか。とりあえず次にあったときは送り出すことも出来なかったことを詰られるのだろうと推測しながら、何とも言えない気持ちになる。どうせ、送り出しても嫌な顔をするのに。一体自分にどういう対応をしろという。
　とりあえずそのまま四人で城内に入ると、待ちかまえていたかのように、入った瞬間に突進して抱きついてくる影があった。
「政宗殿ぉぉぉ！いつまでも帰ってこぬ故に心配しましたぞー！」
「ちょ、旦那濡れる！それに邪魔になってるから離れようね、ね！？」
　慌てて幸村を引きはがした佐助曰く、幸村は自分が城からいなくなった後も、物凄く自分のことを気にかけていたらしい。そして、雨が降ったときは傘も持たずに飛び出そうとした、らしい。
　幸村らしいと思わず呆れて、同時にそれを止めた佐助に惜しみない賛辞を送る事にした。心の中でだが。とにかく、そういう状態の幸村を止めることは難しいのである。何度か目にしているからよく分かる。
　流石は保護者。
　コレを言ったら絶対に全力で否定か、あるいはとことん落ち込むのだろうと笑いながら、何だか大人数になってしまった状態で部屋の戸を開けると。
　何か、黄色いのがいた。
　まぁ、黄色いのと言うか、つまりは背は向けているが風来坊で慶次であって、彼はここは自分の部屋だというのに彼の部屋であるかのような寛ぎっぷりを発揮していて、その姿は怒りよりもいっそ諦めを抱かせるような物であって。
　これだからこいつは、とため息を吐くと、ようやくこちらに気付いたのか慶次は振り向いて、自分と、自分の後ろの色んなのに目をやって、笑った、
「やぁ、独眼竜。随分と立ち直ってるみたいじゃない？」
　その言葉に。
　一瞬だけ言葉を詰まらせて。
　それから、
「Ha。俺は初めから落ち込んでもいねぇよ」
　政宗は、笑い返した。

---

順番に、始めに戻っていく感じ。

あともう一つだけありますので、もう少しだけ付き合ってください。