09:白い地図
「……何があったよ?」
今日も今日とて何の前振りもなく突然奥州を訪れた瀬戸内組は、いつにもまして妙に険悪な雰囲気を漂わせていた。
放っておいても支障は無いとはいえ、やはり険悪な中の両名を目の前に置いておくというのもげんなりする話で。仕方が無いのでギスギスした空気の回復を図るべく、政宗は元親と元就に何があったのかと問いかけるしかなかったのである。
そんな自分に答えるように元親が勢いよく立ちあがり、ビシィッ、と元就の方を指さして。叫んだ。
「日本の外ってどんなんだろうなぁって事を言ったらコイツ、いきなり笑いだすんだぜ!?なぁ、政宗、酷いと思わねぇ!?」
「酷いとは失礼な。あと、笑ったのではない。冷笑を浮かべたのだ」
「訂正した後のが酷ぇってどういう事なんだかな……」
本当にこの二人は変わらない。いつもいつも、仲の悪さ丸出しのやり取りをしている。しかし、その割に一緒に行動していることが多いのはどういうことだろう。最早二人の中は、腐れ縁と形容されるべき物にまでなっているということだろうか。
何にしたって両名にとっては不本意でしかないだろう。そんな風に思いながら、元親の言葉を脳内で反芻してみる。
日本の、外。
それは、自分も興味を持っている事柄の一つだった。
日本だけでも広く、人の手にはあまりそうなほどの土地がある。
では、その外にはどれほど広大な世界が広がっているのだろう。
そう考えて見た事は、一回や二度では無い。
……それに、日本とは違う世界が、文化がそこにはある。気にするなという方が無茶だと、自分辺りは思うのだが……その話を聞いて冷笑を浮かべたというし、元就は違うのだろうか。
じぃ、と尋ねる様な視線を向けていた事に気付いたのか、元就がこちらを見て苦笑した。
「我とて外の国に興味が無いわけではない。が、それに関する事柄をこの馬鹿鬼が口にするのが馬鹿げた話だと思うただけのこと」
「は!?何で俺が夢語っちゃいけねぇんだ!?」
「では訊くが、貴様、国の方は大丈夫なのか?」
噛みついて来た元親に、元就が口元だけの笑みを浮かべながら答える。
「聞くところによると、またまた新しい『玩具』を作ったと聞く。そんな事をしていて、国の経済はどのようになっているのであろうな?」
「う……」
「みろ、答えられぬではないか」
息をつめた元親に薄く嘲笑いながらそう言って、元就はこちらを見た。
「というわけだ。政宗よ、我がこやつを貶したくなる気持ちも分かるであろう?」
「……他人事じゃねぇから何とも言えねぇ」
視線を逸らしながら、政宗はそう応じた。
別に、祭り事をないがしろにしているわけではない、とは思う。けれども自分の場合、どうしても武芸の方向に力が入ってしまうのはある意味、当然の流れであるわけで……それで、元親の玩具作り……否、からくり作りを笑うことなどできようはずが無い。
その辺りは察したのか、呆れた表情を浮かべて元就が嘆息した。
「やれやれ。竜には未だ右目がおらねばならぬようだな」
「……そーゆーの抜きにしても小十郎はやっぱ要る」
「ふむ。まぁ、それもそうか」
「……ってゆーかよぉ……じゃあ、元就、テメェは『外』に関して何か行動してんの?」
先ほどのやり取りで完全に負けてしまったせいだろう、若干気力が削がれている様子の元親が手を挙げ問いを投げる。対して、元就はそれを鼻で笑ってみせた。
「愚問よ。我にはザビー様がいるのでな、あのあたりから外の国の情報は仕入れている」
「…………信用できるか?」
恐る恐る質問してみると、肩を竦められた。それは分からないと言わんばかりの表情である。どうやら、そこまでかの教祖の事を信用してはいないらしい。……本当にザビーを尊び敬っているのか、少し疑問に思ったが、それを訊くのは止めた。何にしたってザビーが可哀想な事になる返答が返ってくるのは間違いない。
そういうのは、本人を前に言わせた方が面白い気がする。
果たして、その機会が自分にあるのかというのはさておいて、だが。
「だが、奴らが優れた外の国の技術を持っていることは事実なのだ。我は今の所、それで十分だと思うておるがな。外に出るというなら、さらに力を付けた後であろうよ」
「やっぱそうなんのかねぇ……」
ならば、とっとと日本統一でも何でもしてしまおう。その後で元親の船を奪い取って外海に出るというのも良いかもしれない。
ぐ、と伸びをしながらのんびりとそう思う政宗だった。
この三人の組み合わせって多いよね……ここ。幸村とか佐助とかも出したいのだけれども。