空はどこまでも青く澄んでいた。きっと寒き日の空だから余計に青いのだろう。空気が澄んでいるせいか、この季節は空も澄み切っている。
そんな空の下、政宗は城門の所で何をするでもなく立っていた。
いや、していることはある。考え事を、している。
このまま城に戻ろうか。
それとも城下に行ってしまうか。
どちらにしようかと、考え込んでいた。前者の場合だと今日は一日中白の中で政務に追われることになるだろうし、後者の場合だと行きたいところに行くことが出来る。
まぁ、そうなれば考える必要もなく結論は出ているのだけれど。
では行こうかと足を一歩踏み出した、その時、上から声が降ってきた。
「おや、お出かけかい?」
誰なのかは声から分かるから改めて上を見て誰なのか確認するでもなく、政宗は階段を下りながら口を開いた。そこに少し呆れが混ざったのは仕方のないことだろう。甲斐と奥州、割と距離があるのは誰が見たって間違いないのだし。
「ちょいと町にね。……そういうアンタはどうしたよ」
「俺様?俺様はねー」
いつの間にやら隣を歩いていた佐助は肩をすくめた。
「毎度の如く、旦那のお世話役」
「…?つっても、幸村いねーけど」
「もうすぐ着くんじゃない?俺様、先回りしてこっちに来ただけだし。にしても…全く、旦那ってば人の話も聞かずに飛び出しちゃってねぇ……困った人だよ、本当」
ため息を吐きながら背に哀愁を漂わせている佐助に、事情はどうやったって推測も出来ないけれども憐れを覚えた。彼も結構苦労人なのだと今更ながらに思い出したから。
何と言ってやるのが正しいのかと考えている間も当然足は止めず、石段を全て下り終えたところで、
「むぁさむねどのぉぉぉぉぉぉ!」
丁度突進してきた幸村を、軽く避ける。
かわす間際に進撃方向に沿って後頭部を足蹴にしてやったからか、石段とぶつかった幸村の顔表面は完全に石の中にめり込んでいた。……後で、階段を直しておかなければならない。修理費は幸村持ちと言うことでどうだろう。文句なんて言わせるものか。
「んで何の用だ」
「実は佐助が!」
と、ガバッ、と石段から顔を引き抜いて幸村が勢い任せに答えた。
普通なら気絶しているだろう場面だったが、そこはやはり真田幸村なのだ。だから大して機にもせずに、政宗は佐助に投げかけた質問を幸村に渡すことにした。
「佐助が何て」
「うむ!佐助が政宗殿が風邪にかかったと言っておりましたので、この幸村、急ぎ参ったということにござる」
「あー、成る程」
そういうことか。
理解しながら佐助を軽く睨むと、彼は申し訳なさそうな表情を浮かべた。そういえば先ほど「人の話も聞かずに」なんて言っていたし、今回も幸村の暴走と言うことなのだろうから、現状は彼にとっても不本意な物なのかも知れない。
そう考えると、佐助には本当に同情出来る。
これからも彼の苦労は続くのだろうと思いながら、政宗は幸村に言った。
「幸村、俺の風邪な」
「む?」
「もう治った」
「なんとっ!?」
「んで、俺の看病してた小十郎が寝込んでる」
まぁ、あれだけつきっきりで看病していたのだから、風邪の一つや二つくらい写りもするだろう。熱が出たのだと聞いたときには妙に納得もしたものだ。
などと思うが看病をしてもらっていた身ともなり、日頃よく世話になっていること空も考えると蔑ろに出来るわけもなく、そもそも蔑ろにするつもりもない。だから、放っておくことなんてできるわけもないのである。
そういうわけだから、今から見舞いに行こうかと思っていたのだけれど。
「俺は今から見舞いに行くからテメェらにつきあえねぇぜ」
「そうでござるか…いや、しかし、そうと聞いてしまっては某も片倉殿の見舞いに行きたと思うのでござるが」
「別に良いけどよ…面白いもんとかねーぞ、アイツの家。庭は野菜畑だし」
「うーん…それはそれで面白そうだけど」
「この時期はどのような野菜が食べ頃でござろうか」
「旦那は相変わらず食のことしか考えてないねぇ…」
苦笑する佐助に、首を傾げる幸村。
そんな二人を眺め、政宗は微かに笑みを浮かべた。
というわけで風邪のお話。今度は誰に風邪をひかせましょうか。