悪戯注意

幸村は辛いもの苦手かなぁとか思ったので。

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　その反応は想像以上の物だった。

「……jokeのつもりだったんだがな……」

　眼前で……いや、眼下で口元を押さえ悶絶している好敵手の姿を、見る。これはそんな、床にうずくまって震える程の刺激物だっただろうか。

　いや……多分、違う。手に持っている皿を見ながらその発想を打ち消した。まだ二個残っているそれを最初に味見した時には、少なくとも自分はこんな事にならなかった。嫌がる小十郎にも無理矢理口に押し込んで同じものを食べさせたが、その時も特に大変な事は起きなかったように思う。

　大変だったのはむしろその後。竜の右目は完全に説教の鬼と化し、自分には逃げるというしか選択肢が残っていなかったのである。そして、そんな時の右目の強さと言ったら形容する事も難しい程で、もう、何と言うか……二度としませんごめんなさい、とか叫びたい気持ちになった。

　……ちなみに、ちょっと叱られた時の気分を引きずってたりする。

　だが、そういう暗い気分を押しのけてでも今、気にかけるべきは未だに復活しない好敵手の方だろう。こうなった元凶は一応自分だ。

　しゃがみ込んで、声をかける。

「おい、幸村……大丈夫か？」

「……っ」

「……そうかい」

　力いっぱい首を横に振る幸村にため息交じりの肯定を返し、政宗はぽい、と皿の上に乗っていた物の一つを背後に投げる。

「言っとくが、毒とか入ってねぇからな」

「いやまぁ、そいつは分かってるけどねぇ」

　その菓子を難なく受け取った忍の気配を背後に感じつつ、そちらにはお構いなしに、政宗は屍寸前状態に見える幸村の肩をちょんちょんとつついた。反応は予想通りと言えば予想通りなのだが、無い。

　……本当に大丈夫だろうか。

「うわっ！？」

　冗談抜きの心配を覚え始めた頃、後ろから短い悲鳴が上がった。

「ちょっと竜の旦那！これ、何！？」

「菓子」

「菓子って……こんなのを菓子とか呼ばないで！何これ、甘くないとかいう次元の問題じゃあなんだけど！」

「そりゃそうだろうよ。わさび入りだ」

「わさび！？」

「ま、入りとか言って、本当は表面に軽く塗ってあるだけだけどな。何も知らずに食べたら普通に驚くだろ？」

「確かにねぇ……」

　頷く佐助は、ちらりと幸村の方に視線を向けた。

「で、それが旦那には大ダメージだったと」

「想像以上にな。何でこうなってんだよ」

「さぁ。でも、旦那だからねぇ……」

　どこかしみじみとした調子で呟き、政宗の隣に同じくしゃがみ込んで、佐助もちょいちょいと幸村の肩をつつく。すると今回は少しだけ反応があって、とりあえず回復しているのだろうと言う事が分かった。

「ほら、甘いのが来たと思って食べたら実際は違ったわけでしょ。そうなると誰だって、当然だけど驚くよね？」

「驚かせるのが目的だしな」

「ということは、それを甘い甘いと思っている相手ほど効果はテキメンってわけ」

「つまり？」

「旦那には効果抜群って事」

「……あぁ」

　そう言う事なら分からなくもない。菓子を出した瞬間に目を輝かせて飛びつこうとするくらいの甘味好きなのだから、そのくらい有り得ない事も無い気がする。

　けれども、やはり納得からは程遠く。

「…や、けどやっぱ行き過ぎてねぇ？」

　結局、行きつく結論はそこだった。何回考えても何回考えても、やっぱり床にうずくまる程ではない気がするのだから……仕方が無い話だが。

　そこは同意見らしい。佐助も曖昧な笑いを浮かべて肩を竦めた。

「でも、それくらいしか思いつかないでしょ、理由なんて」

「……まぁな」

　あと考えられるとしたら、それは幸村の食べた菓子の中のわさびが通常よりも多かった事だろうが、絶対にそれは無いと断言できる。どれも均一の量を仕込むようにと慎重さの上に慎重さを重ねて、この菓子たちは作り上げたのだから。

　とりあえず今度から幸村にこの手の悪戯は止めようと、政宗は心の底から誓った。

 

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からし入り菓子なんて本当に嫌ですよね。