07:あやとり (三国伝:天玉町一家)
簡単そうに見えるものだって、やってみれば存外難しい物。
右手と左手の間のこんがらがった糸を見て、孔明は重く息を吐いた。
別に、油断してかかったというわけではない。慎重に慎重に、言われた通りにやり方通りにやってみたつもり、だったのだが……結果はこの通り。
指からあやとりの紐を外し、絡まったそれを解きながら、残り三人の方を向く。
そしてその中の一人に視線が止まり、思わず目を細めた。
「他の二人はともかくとして、どうしてお前までそんなに上手なんですかね……」
「俺からすれば、どうしてお前がそこまで下手なのかが分からないんだがな」
同じく初心者であるはずなのに、何やら難しげな技を完ぺきにこなしているホウ統は、だというのに何でも無い様にそう言って首を傾げた。
まぁ、確かに彼には分からないのだろう。あやとり練習開始の五分後には連続技をマスターしていたし、十分後には少し複雑だとか言う技も仕上げていた。始めから、彼は全然あやとりに手間取っていなかったのである。
一方の自分はと言うと、開始直後から三十分経った現在まで、一つも技を完成させていない。途中まではどうやら上手く言っているようなのだけれども、気が付けばどこかを間違い、最終的には今の様な状況に陥っているのだ。
どうしてこうも違うのだろうかと再度息を吐くのに合わせるかのように、ぽん、と叩かれる肩。
何だろうかと顔を向けると、そこには何やら楽しげな、あやとり経験者である徐庶の笑顔があった。
思わず、半眼。
「……何ですかその顔」
「いやぁ、誰にでも弱点ってあるんだなぁとか考えつつ、悪戦苦闘してるお前を微笑ましく思ってただけだぜ?」
「わっ……私はそんな孔明先輩でも良いと思いますよ!」
「ははは……ありがとうございます」
フォローのつもりなのか、ぐっと握り拳を作って力強く言う月英に引き攣っているかもしれない笑みを返し、視線を落とす。何と言うか……顔を上げていられなかった。
「……練習すれば少しはマシになるんじゃないか?」
「練習開始十五分後に東京タワーを作ったお前には言われたくないですよ……」
降ってきたホウ統の言葉に返しながら、決意する。
とりあえず二週間の間に、箒くらいは作れるようになっておこう。
まぁ、実際は孔明さんなら何でもやっちゃいそうなんだけれど。でも、そう言う人にも苦手な何かがあると良いねとか。……というわけで、こんなお話になったり。