自分でも意外なくらい苛々してるなぁと思いながら、出されたカップの中身をちらりと見る。そうして赤茶っぽい液体に映っている自分の顔を見て、ほんのりと憂鬱な気分になった。こんな顔をして自分は今、こんなところにいるのかと思うと少し情けない。
だからといって帰る気にもなれず、ずるずるとここに留まる自分がとても嫌で、何で飛び出してしまったのだろうと数時間前の自分の行動を悔いた。考える暇が無い程に勢いよく飛び出て、その結果がこれではどうしようもない。
苛立ちは自己嫌悪を呼び、自己嫌悪は苛立ちに油を注ぐ。
そんな悪循環の中で、ついにデスサイズは息を吐いた。
「どうかしたのか?」
小さかったはずのその音を捕えでもしたのだろうか、向かいに座っていたエピオンが視線をこちらに向けた。
「いや……何て言うかさぁ」
ぎ、と音を立てながら背もたれに体重をかけると紅茶で出来た鏡が目に入らなくなり、覚えたのは微かな安堵。
「ウイングが自爆するっていつもの事じゃんか」
安堵のお陰か余裕を取り戻し、日頃と変わらない調子で言葉を発する事が出来、それに対して心中でほっと息を吐きながら言葉を続ける。
「別に今回だけの話じゃないだろ?なのにムキになったりして……我ながら、何でこんな『いつも』にここまで苛立ってんだかって思ってるわけでさー」
「何だ、軽い自己嫌悪か」
「……うんまぁそんな感じ」
あっさりと言われ、何とも言えない気分を抱きつつ頷く。
トールギスⅢでもあるまいし……何でそんな簡単に気持ちを当ててしまうのだろうか。確かに顔に随分と出ていた気はするが、全てを悟らせる程では無かったと思う。苛立ちは隠せなかったが、嫌悪感の方はそれに隠れてしまっていたと思ったのだけれど。
紅茶に映った自分の顔を思い出しながら首を傾げると、しかし、そちらには気付かなかったらしいエピオンはそのまま言葉を続けた。
「ストレスでも溜まっていたんじゃないのか」
「ストレス?え、今更?」
「今更だろうと溜まりそうな物だがな」
「ふーん……ストレス、ねぇ」
有り得るかもしれないと与えられたその言葉を何度か口の中で適当に転がしてみると、何故だか違和感の味がした。
不思議な事だと思いながら言葉を転がすのを止めた頃、丁度くく、と笑い声が聞こえてきた。……誰のものかと考える必要はない。だって、一番最初に訪ねたはずの存在はどこかに出かけてしまっていて、今この場にいるのは自分と彼だけなのだから。
本当にどうして出かけちゃったんだとトールギスⅢに軽く恨みを抱きながら、おかしそうに笑っているエピオンの方を睨みつける。
「……笑うなよな」
「いや、見事に違和感しか覚えなかったようだったからな、思わず」
「さっきから思ってたんだけどさ……そーゆーのって、分かるモン?」
「顔を見れば直ぐに分かるな。お前みたいな顔に出るタイプは尚更に」
「あぁハイそうですかっ」
「拗ねるな。貶してはいないぞ」
「褒められてもねーじゃんか。ていうかそういう話、オレ以上に感情が顔に出そうなアンタには言われたくないっての……」
脱力しながら言うと、再び笑い声。
今度は何だと視線で刺すべくそれを向けると、今回は穏やかに笑う顔が見えた。
想像とは違う笑みに虚を突かれ、視線から力が抜ける。
「えっと……何?」
「良い顔になったなと思っただけだが」
「へ?」
「こんな会話でも気分転換には役立ったようでなによりだ」
「……あ」
その言葉を耳にしてようやく、苛立ちが小さくなっている事に気がついた。
何時の間に……という問いの答えはこれでもかという程にエピオンの言葉に示され自分で考える必要が無い程で、思わず彼と二人だけにされた事を恨んだ事を反省した。そういえば彼だって、ウイングとの決闘が絡まなければ案外、多分、きっと、おそらく、頼れる存在と言えば頼れる存在なのだった。
改めての発見にどんな反応をするべきか惑っていると、先手を打つように彼は言った。
「とりあえずそこにある紅茶でも飲んでいけ。自分で言うのもなんだが、美味いはずだぞ」
「あ、もしかしてこれってエピオンが淹れた、とか?」
「淹れたし、作った」
「まさか紅茶の葉から!?」
「暇だからな」
何でもない様にエピオンは言い、普通に紅茶を飲んだ。
デスサイズはと言うと、エピオンの言った『暇』という単語に対して何とも言えない申し訳なさを、彼を暇にしている元凶であろう自爆魔の代わりに抱きつつ、体を再び机の方に戻した。もう、紅茶から離れる必要はどこにもない。何せ彼が言うには今の自分は割と良い顔をしている、ということだから。
そして見えた自分の表情に苦笑を浮かべ、カップを手に取った。
これを飲みほしたらウイングに会いに行こう。
私、勝手にエピオンはウイングとかよりも年上だと思ってます。白辺高校の設定見たら一目瞭然ですが。
トールギスⅢとおんなじくらいっていう気持ちで。んで、このイメージはテレビアニメのガンダムWを見てからじゃなくて、フルカラーだけ読んでた時からなのですよっていうね。
とりあえず、エピオンはやるときはやる頼れるお兄さんだったらいいなぁというお話。
…ウイング絡んだら確実にアウトですが。
んでんで。
エピオンとデスサイズが仲良しなのも何気に好き。デスサイズにいつかエピオンの事を「エー兄」と呼ばせてみたいとか思ってる。そして実際に、そんな話が出来ないか考えてるんです。……何考えてるんだ。
その派生形?で、ナタクの事を「なっちゃん」て呼んで欲しいです。ちなみにこうやって呼ばせてるお話はすでに出来上がってるので、そのうちサイトにあげる予定。
……うわぁ、あとがきが未だ嘗てないほど長い…。