20.最後のヒント
「は……ぁ…………ギブ!ギブアップ!」
「もうなのかよ……もうちょい頑張れ、ライル」
「ンな事言われたって、ノーヒントでどうやって探すんだよ」
スコップを放り投げて、ライルは呻いた。
そんな弟の隣で、シャベルを動かす手を止めてニールは息を吐く。
「ヒントならもらっただろ?」
「あぁ、そういやそうだったよな。庭と家の中のどこかだって……広過ぎんだろ!」
「まぁ、それはそうかもしれねぇけどさ」
頬をかいて、流石に反論できない言葉に対してどう返そうかと考えていると、弟は勢いよく庭の土の上に腰を落とした。
風を送るように片手で顔を仰ぎながら彼は言う。
「というわけで俺は休む」
「ん?ギブアップじゃなかったのか?」
先ほどの弟の言葉を思い出しながら首を傾げると、ぴくりと彼の肩が揺れた。
「……さっきのは言葉のあやってやつ」
「勢い任せだったしな、そういや」
確かにあの勢いならそう言った事を言いかねない気はする。
成程と思って、ニールもライルの隣に腰を下ろした。
「……何だよ」
「いや、折角だから俺も休もうかと」
「そーかよ」
「っていうか……本当にどこにあるんだろうな」
「俺が訊きてーよ。エイミーが隠したんだから、そんな大変な場所じゃないとは思うんだけどな……そういやアイツは?」
「エイミーは、タイムリミットまで俺たちの部屋で待ってるって」
今回の『ゲーム』の主催者の楽しそうな笑顔を思い出して、今回の成り行きを頭の中で過去から順繰りに辿る。
始まりはエイミーの宝探しをしよう、と言う言葉。
それに、今日は特に何をするでもなかったニールたちは乗ったのだ。暇つぶしに丁度良いと思ったし、妹の誘いを断ろうという考えが浮かばなかったから。
そして今。
彼女からのたった一つのヒントを手に、彼女が隠した宝を探しているのである。
というわけなので、ニールたちはそろいもそろって宝の形や大きさ、種類など情報を全く知らないのである。
それでどうやって探すのかと言われれば分からないと答えるしかなく、故にニールとライルは手当たり次第にひたすら『それっぽいもの』を探していた。
……こんな次第だったので、随分と疲れが溜まり、なおかつライルが諦めかけた、と言うのは酷く納得のできる状況だったりした。
「おにーちゃーん!」
もうちょっとヒントが欲しいよな、なんて心の中で呟いていると、不意にゲーム主催者の声が聞こえて来て弟と一緒に振り向く。
「エイミー、お前部屋で待ってるんじゃなかったのか?」
「お兄ちゃんたちがおそいから、気になって来たんだよ」
「それは悪かったな。まだ見つかってねーんだ、これが」
肩を竦めてライルが言うと、エイミーは頬を膨らませた。
「見つかってないって、お兄ちゃんたちさぼってるんだから見つかるわけがないよ!」
「さぼりじゃなくて、これは休憩だって」
「知らないもん!」
「ごめんな。ちょっと疲れちゃったからさ」
弟の言葉にムキになる妹を宥めつつ、ニールは苦笑を浮かべる。
「……なら、しかたないってことにしてあげる」
汗だくのニールとライルを見て納得したのか、渋々といった態で引き下がるエイミー。
しかし次の瞬間、何かいい事を思いついたのだと言わんばかりに明るい笑みを浮かべ、ぱんっ、と両手を打った。
「じゃあ、もう一つヒントあげるね!」
「ヒント?まだあったのか?」
「うん。じゃあ、ヒントです」
言いながら、エイミーはニールとライルの間にちょこんと座る。
「たからものは、お兄ちゃんたちのあいだにかくれてます」
「へ?」
「それって……」
どういう?と二人の兄が頭の上に疑問符を大量に浮かべる頃。
妹は、服についていたボケっとの中から二つの小さな、可愛らしいラッピングを施してある袋を取りだした。
そしてクッキーが入っているそれを一つずつ、ニールとライルに渡して笑んだ。
「たからもの!きのう、お母さんと作ったの!」
あげるね!と、無邪気に言う妹の様子を見て。
ニールとライルは互いに顔を見合わせ、静かに微笑んだ。
仲良し兄妹って素敵ですよねという。エイミーについては完全に想像だけど。でも、可愛い子だったんだろうなぁ、とね。