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ぞくっと背中に悪寒が走った気がして、思わず刹那は足を止めた。
慌てて辺りを見渡したが……マリナの姿はない。ということは、別の理由から悪寒を覚えたと言うことになる。
しかし、刹那にはマリナ以外に悪寒を覚えるような心当たりはいない。それ以外にも悪寒を覚えるような対象がいるのだとしたら……世の中は本当に慈悲のない。もう少しくらい救いを残してくれていても良いではないか。
「……刹那?どうかしたのか?」
「いや……少し悪寒が」
「風邪かよ?」
心配そうに尋ねてくるエクシアとケルディムに、問題ないと首を振ってみせる。実際単なる悪寒だったし、風邪の引き始めというワケでも無さそうだ。だとしたらもっと体は怠くなっていることだろうし。
となれば、やはり別の要因があっての悪寒だろうが、果たしてそれが何なのだろうかという、その肝心な部分が分からないから仕方のない。
何なのだろうと、刹那は記憶を過去へ過去へと辿る。分からないままは嫌だ。
別に、元住んでいた街には苦手な人間はいなかった。いても、悪寒を覚え羽様な存在ではなかったはずだ。アリーを見るときは悪寒ではなく嫌悪感が強い。それに、この悪寒は負の感情からではなく、純粋に危険ではない危険を察知するような物、だった。たとえば放っていたらオモチャにされる、というような危機など。
だからマリナくらいのものなのだ、この悪寒を覚えるのは恐らく。
それ以外と言ったら彼女に会う以前……
『ソラン、貴方またこんな所で寝てるの?』
『…風邪は引かない』
『そう言う問題じゃないと思うよ?……の言うとおり、場所は移そうよ』
「……!?」
「刹那!?」
途端に流れ込んできた、何かの、誰かの…誰かとの会話の記憶に、刹那は足をよろめかせた。異物が、スルリと入ってきた感じがする……気持ち悪い。
エクシアが支えようとしてくれたが、手振りでそれは止めさせる。彼と自分とでは大きさが違いすぎるから、それをするのも結構な苦労が必要だろう。ならばやらなくても良いし、まだ自分で立てるから大丈夫だ。
「……休むか?」
「いや…行こ…」
「刹那!」
未だに心配そうにこちらを見るエクシアを促して、歩き出そうとしたところでセラヴィーが刹那の服の袖を思い切り引っ張った。少しよろけ、この小さな体のどこにこんな力が、と驚く。それ程までに、袖を引くのは強い力だった。
そして、袖を引いた本人は必死な様子で言葉を続ける。
「刹那、今の!今の記憶を辿ってお願いだから!」
「セラヴィー?」
「今のだよ!今のが君に埋め込まれている記憶なんだ!今、君の中でその記憶が開こうとしていたんだよ!扉が開こうとしていたんだ!」
いつになく高いテンションのセラヴィーは、頬を上気させてこちらを見ていた。その、自分の中にあるという記憶とやらは、彼にとっては何よりも得難い物らしい。
それはそうだろうと、呆然と額に手をやりながらも思う。
彼の言うことが正しいのなら、その記憶は何よりも価値のある物なのだ。
しかし。
「……すまない。もう、思い出せない」
「…そっか」
先ほどの記憶は、もう一度掴もうと思っても居場所すら分からなかった。