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ずっと、ずっと昔から『両親』が嫌いだった。
それを言うと隣人も、友達も、兄や妹でさえ不思議そうな顔をしたのだが、自分からするとどうして『彼らを好きになれるのか』が全く理解できなかった。それを言うとよけい不思議がられ、そんなことを思ってはダメだと諭されたので、以来その話は例外を除いて口にもしていない。
しかし、本当に不思議だった。
何で、あんな人間を好きになれるのだろうと。
あんな、暗い闇を背負っている罪人を。
それを言うと、今度は変な物を見る目で見られた。誰の目からもそんな物は見えないと言われ、初めてそれが誰にも見えていないのだと知った。
その闇は思念だったのだと、それから数年経った頃に出会ったとある友達に聞いた。彼が言うにはそれは、あの二人によって虐げられた者たちの思いがまとわりついているのだと、そんな話らしい。
バカらしいと思ったが、同時にあり得ると思った。
さらにしばらくして、あの二人が何をしていたかを知ってからは、あり得るかも、が絶対にそうだ、に変わった。
あんな事をしていたヤツらを普通に好きになるには、そうである以外に原因は見つからなかったのだ。
それと。
自分は、ずっとずっと、生まれたときから兄が嫌いだった。
こちらは、理由なんて全く分からなかった。ただただ嫌いで、しかし理由もなくというのは自分でもどうかと思ったので、おくびにも出さなかった。それだけのこと。
結果、こちらは咎められることもなかった。
とにかく、何もかもが嫌いだったのだ。
その、やれば何でも出来たりするところだとか、人付き合いがとても上手なところだとか、本当に、何もかも。自分でも分からないくらいに。
それが完全なる嫌悪に変わったのは、あの事件以来の事だろう。
あの事件さえなければ、表面上は普通の仲の良い兄弟としていられたはずだ。
だが、あの事件は起こってしまい、兄は事件に関する全ての記憶を失った。
対して、自分は失わなかった……失うことが出来なかった、とも言う。
そんな事情があったからこそ、自分は全てを忘れてしまった兄を嫌った。真実を忘れたまま生きている兄が許せなかったし、見当違いの敵意を見当違いの相手に向けている様も、本当に苛立ちを覚える物だった。
だけれど、今。
兄が自分の目の前で頭を下げている姿を見て…何と反応をすべきか。
ライルには、全く分からなかった。