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こちらは帰路についている真っ最中です。
帰らなければならないのか、と、刹那は旅館を振り返り見ながら少し残念な気持ちに襲われていた。理由は、旅館で出会った誰かとの卓球の勝負が付かなかったからである。どうやら手品が上手い道化師の知り合いだったらしいが、それを知ったところで再び出会えるとも言えないだろう。
つまり、彼との決着は付かないままなのだ。
それはあまり……喜ばしいことではない。
まぁ、自分たちが出る前に彼らも出てしまったらしいけれど。それでも残念だと、何となく思ってしまうのである。
「刹那、行くよ?」
「…あぁ、そうだな」
前の方を先に行っていたアレルヤに促され、刹那は素直に頷いて彼の後を追った。ニールはその少し先で止まっているのだが、ライルやティエリアは全くの無視で先に先に行っている。ちなみにハレルヤも止まっているが、これは自分ではなくアレルヤを待っているのだろう、間違いなく。
だからとりあえず、この場合は他三名はともかくとして、アレルヤとニールくらいは困らせてはいけないだろうと思う。だから素直に、だ。
直ぐに隣まで追いついた刹那に、アレルヤは手元の紙袋を見下ろしながら言った。
「ねぇ、これでお土産良かったかな」
「別に土産自体がいらないと思う」
「チビと同意見だぜ。アイツらに土産なんていらねぇだろ」
「刹那、ハレルヤ、そう言うことを言ってはいけないよ」
「だが…」
ハレルヤのような理由ではない物の、刹那も言ったとおりに土産はいらないと思っていた。何というか、土産なんて自分たちが持って行かなくてもその気になれば、いくらでもその土産と同じ物を手に入れることが出来る気がしたのだ。CBという組織の強大さとかネットワークとかを舐めてはいけない。
そのために、わざわざかさばる物を買って持って帰るというのが無駄な行為に見えて仕方がない、のだけれど。
それをかいつまんで話してみると、アレルヤは困ったように笑った。
「それはそうかもしれないんだけどね……けど」
「…?」
「やっぱり、手渡しでもらう方が嬉しいと思うんだけれど」
「……そういうものなのか?」
手渡しだろうと宅配だろうと、手に入る物は一緒だと思うのだけれど。
首を捻っていると、よく分からないけれど、とアレルヤは続けた。
「やっぱり、手渡しって暖かい物だと思うよ」
「…そうか」
「うん」
頷くアレルヤを見て、思う。
完全に納得できたわけではないのだが、こういう風に穏やかに笑う彼の言葉だから、あぁそうなのだろうか、と思えてくるのだ。不思議な話、なのだが。
今まで黙って聞いていたハレルヤは、意外とそれに関しては何も言わなかった。何を言ってもアレルヤの持論が変わるわけがないとでも思っているのか、それとも同意見だからなのか。どちらにしろ少し意外ではある。彼なら反対意見の一つや二つ、自分と同じように零したりしそうな物なのに。
そんな刹那の疑念の籠もった目に気付いているのかいないのか、ハレルヤはアレルヤの手から紙袋を自然な動作で奪い取った。
「…ハレルヤ?」
「持ってやるよ」
「え……良いよそんな。ハレルヤはハレルヤの荷物があるでしょ?」
「そんなんお前も持ってるじゃねぇか。ならお前が持とうと俺が持とうと何も変わりはねぇだろ」
「そうかなぁ…」
断定口調のハレルヤの言葉に惑わされているようだけれど、違う、と刹那は二人のやり取りを見ていた。ハレルヤのそれは恐らく『屁理屈』と称される物の一つであり、全くと言っていいほど根拠のない言葉だ。
それを一瞬、アレルヤに伝えようかとも考えた。が、ハレルヤに鋭い視線を送られたために止めざるを得なかった。恐れるわけではないが、ここで彼を敵に回すのは得策ではない。それに彼が持っていようとアレルヤが持っていようと持ち帰られるのなら、土産に関しては全く問題はないだろう。
あと、まぁ。ハレルヤが折角親切心を出しているのを邪魔してもいけないか、という気持ちも無きにあらず、だが。
…ただし、その親切心はアレルヤ限定である所を間違えてはいけない。
「帰ったらクルーのみんなに色々と話そうね」
「話せるようなことあったか?チビと誰かの卓球勝負なんて、聞いても全然楽しくねぇと思うぜ?細かく言えるようなもんでもねぇし」
「あの道化師さんの手品のこととか…色々あると思うんだけれど」
「あれに関しては実際に見ないと分からないと思うが」
「…じゃあ、何を話せって言うの?」
「そこまでは分からない」
首を振ると、アレルヤは残念そうな表情を浮かべた。
CBという組織の強大さを考えれば、土産なんて実際はいらないと本当に思います。