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番外編・1
二人は名前を名乗らなかった。曰く、必要ないとのことだったが……私にはどうも納得が出来ない。名前という物は酷く大切であるというのに。
だから少し頬を膨らませていると、お父様が優しく頭を撫でてくれた。
そうして言い聞かせるように、お父様は口を開いた。
「いいかね?彼らには名前が多すぎるのだよ」
「……名前が多すぎる?」
「あぁ。だから、彼らにとってそれは悲しくも持て余す対象となってしまった」
「オイ」
椅子にふんぞり返って座っていた、片方の来客がお父様を見た。苛立っているように見えるが、その実、それ程苛立っていないようにも見える。つまるところ、苛立っていないと言うことだった。分かり難い。
もう片方は苦笑して眺めていた。ということは、偉そうな方のお客様は、いつもこういう態度なのかも知れない。ちょっと改めるべきだと思う。最低でも私よりは年上だろうに、
私よりも態度がなっていないように思える。というか、こんなチンピラみたいなのがお父様の知人、というのが酷く苛立たしい。
「何かね?」
「悲しくも、じゃねぇっての。勝手に変えんじゃねぇよ」
「悲しいことだと私は思うのだがな……」
「それはテメェだけだろ」
ふぁ、と欠伸をしてその人は続けた。
本当に、つまらなさそうに。
「名前なんてモン付けて、自分に名札付けて歩くようなマネは飽きたんだよ。俺たちが、『俺たち』である以上は何も変わらねぇからな。なぁ?」
「……悲しく、っていうのは分からないけど、君の気持ちは分かるよ」
やや困った様子で、もう一人が言う。
こちらの方は、片方のように断定して良い物かと悩んでいるようだった。そこまで言い切るほどの根拠が、こちらにとっては無いのかも知れない。
「だって、僕らはいわゆる『前世』っていう物の記憶を、全て覚えているんだからね。これで違う名前を付けても意味がない。と思う」
「というと?」
「イオリア、僕に何か……例えばタマだとか簡単な名前で良い、付けられてしまったとします。けれどもその場合に僕には『タマ』であり続けることが出来ない、ということです」
「そうなる前の記憶が、鮮明に残りすぎてんだっての」
「…成る程」
分からない。私は三名の話を聞きながら思う。全くとは言い切らないが、どれほど頑張ろうと完全に理解することは出来ない。とても遠い世界の話であるように、彼らの会話は思えたのだった。
特に前世、という言葉が出て来た時点で理解しようとする努力は無くなった。
私に前世など、存在しない。
私は人形。生き物ではない。仮初めの心臓を胸に入れられ、人工の体を動かしている存在。決して、生物ではないのだった。
けれども、だからといってそれを恨んだことはない。生み出してくれたことに感謝こそすれ、恨む理由などどこにもなかった。
「そういや、コイツ何?」
「オーガンダムのことかね?私が作った人形だよ」
「へぇ……」
「普通の人間と、殆どの箇所が同じに仕上がっている。最高傑作だ」
その言葉に、私は恥ずかしくなって顔を伏せた。
お父様に『最高傑作』と言われるなんて。
嬉しすぎて、今にも死んでしまいそう。