シークレット・メモリー 八つ当たり

　階下で繰り広げられる惨劇を、二世の雨は何を思うでもなく眺めていた。
　街が燃え、家が燃え、屋台が燃え、人間が燃え。まぁ、そういう人間の方が珍しくて、実際は一瞬で消えてしまうような終わりばかりなのだが。彼らは幸運な不幸者なのだろう、きっと。自分だったらあんなのはごめんだが。
　石造りの建物の屋上の縁に座り、足を宙に投げ出して眺める町並みは、そんな理由からか実に赤い。夜に見たらもっと綺麗だろうにと思うが、その時間帯はおおよそが書類整理の時間なので空けるのは無理。
　そんな美しいと呼べそうな景色だったが、それでも肉が焦げる臭いだけは遠慮したい。ちゃんと普通に憤怒の炎を使えばあんな事にはならないというのに、わざと加減を覚えてあれを実行している二世が少し恨めしい。言ったところで『じゃあ来るな』と返されそうだから、直談判はしないけれども。
　ともかく。
　そんな景色を、何をするでもなく二人で眺めていたのだ。
「今回も凄いねー」
「だな。最近暴れさせてなかったからか…？」
「じゃね？あと、あまり構ってあげなかったじゃん、お前」
「俺のせいか？……まぁ否定できねぇけど。確かに構ってなかったけどな」
「ま、ぜーんぶ初代のせいだけどさ」
　とても大きなウサギのぬいぐるみを抱きしめて、小さな嵐は欠伸をした。昨日は初代が夜中に押しかけてきたため、寝るに寝られなかったのだろう、この子供は。騒々しいから眠れないとかそういう話ではなくて、騒々しさに加わりたくて眠れないのだ。どっちにしろ同じと言えば同じか。
　隣に座っている小さな嵐の頭を軽く撫でながら、二世の雨は嘆息した。
「ったく……初代ももう少しくらい二世をからかうのを止めてくれねぇかな…」
「無理無理。初代のライフワークじゃん、あれ」
「そりゃそうだけどな」
　正確に言うと趣味だろうが。
「けどな、限界まで苛立ちを募らせさせるのは問題だと俺は思うわけだ」
「そんなの誰も彼も思ってるっての。でも何も出来ないんじゃんか」
「相手は初代様だしな」
「それ以前の問題だけど」
　小さな嵐が何を言いたいのかは何となく分かる。初代という人間の、二世に対する立場よりも正確の方が問題だと言いたいのだろう。
　全く持ってその通りだ。
「…ま、今回は時期的に丁度良かったけどな」
「えぇぇ？どこが？今回の仕事は俺に回るはずだったのに、取られちゃって俺は全然丁度良くなかったんだけど」
「次の殲滅戦はちゃんと出してやるから」
「…約束だよ？」
「おう。二世に言っとく…にしても、アイツ本気で街ごと消す気か…？」
　いくら殲滅対象が『街全体』とはいえどうだろう、それは。人間と、それから保存されているだろう麻薬さえ消し去れば万事問題はないのだが。街まで破壊し尽くす必要性はそこにはないのである。
　今回のこの任務は、つまりは水面下で麻薬の取引を好き勝手に街ぐるみで行っていた組織の、壊滅を目的とした物である。残党一人残さず全員……街に住んでいる者全員を、完全に始末することが目的なのだ。
　だからといってやり過ぎだと、言う誰かもいるだろう。だが、ボンゴレの膝元で、やるなと言っている麻薬の密売をしている方が悪い。どうなるかくらい考えて然るべきだろう。
　そして、先の会話の通り、この任務は小さな嵐が行うことになっていた。街の人間を全員殺して良いと言ったときの喜びようは半端無かった気がする。そう言えば最近、この子供も暴れる機会が無かったからだろう。
　しかし…そんな小さな嵐には悪いが、その役割は二世に譲ってもらった。
　全てはストレス発散のために。
「けど初代なぁ……何であそこまでちょっかい出すんだ…」
「んーっとね、反応が楽しいから？」
「どうだろうな、それ。対策のうちようが無くねぇ？」
「対策取る気なの？諦めたら？」
「毎度毎度、こんな事になってたらなぁ…」
　そのうち、同盟結んでる相手の所にまで殴り込んで破壊の限りを尽くすのではないだろうか。もちろんストレス発散のため。二世のストレス発散法が『思い切り暴れる』になっていたのは、一体いつだっただろうか…。
　止めなければとは思う。思うのだが……普段の初代と二世の様子を眺めていると、どうしても止める気が起きない。むしろ仕方が無いじゃないかと、二世に同情的な自分がいるのだ。ちなみに、結構同志は多い。
　それでも、だ。
「少しくらい頻度は減らして欲しいんだけどよ」
「これ以上は無理だと思うんだけど。今でも少ない方じゃね？」
「そうか？」
「そうだよ。お前がいなくなったら絶対増える」
　小さな嵐は、確信たっぷりにそう言った。

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こんな感じで倒して勢力拡大していくんだよ…。