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設定として、初代の守護者たちは初代にそれぞれが色々な意味で逆らえません。
今回は、初代の雲についての話です。



「ねぇ、初代。今、君は僕に何と言ったの?」
「雲の守護者としての役割を引き継いで欲しいと言ったんだが」
「…初代」
 気ままな雲の、その声の温度が一度か二度か下がったのを感じて、初代の雨はやれやれと息を吐いた。この反応は分かり切っていたことなのに、初代はよくもまぁ真正面から言って行けた物である。さすがは初代、というべき箇所なのかもしれないけれど、今は出張でいない初代の嵐から初代のお目付役を任されている身としては、何だかこれは歓迎できない状況が近づいてきている気がする。
 これは……どうするべきなのだろうか。止めるべきなのか、放っておくべきなのか。
 正直、止められる気はしなかった。全治一ヶ月くらいを覚悟するならどうにか出来なくもないだろうが、こんな事で怪我をするのも何とも言えないし。
「君は、僕がどれだけ二世のことを嫌いなのか忘れているの?」
「覚えている。あそこまで露骨にされて忘れられるわけもないだろう」
「じゃあ、何で君はそう…そんなんだからまともな部下が集まらないんだよ」
「そうか?嵐なんて良くやってくれていると思うんだが」
「彼はもう君に心酔しきってるから別枠。あれはもう、死んでも直らないね」
 彼の盲目っぷりには困った物だ、と気ままな雲は呟いた。けれども、間違いなく困ったなんて思ってはいないのだろう。彼は基本的に自分さえ良ければ全て良しの人間だ。それがこうやって守護者に収まっているだけもうけ物、だと嵐は言っていた…と思う。
 正直、自分から見たら彼なんて、来るべくして来たような物だと思う。
 だって、絶対にここ以外に彼が満足できる職場はないだろう。
 職業内容的な意味でも、同僚的な意味でも。
 そんな態度はおくびにも出さない気ままな雲は、どうやらダメ押しに入ったらしい。
「とにかく、僕は絶対に引き受けないよ」
「だがな、二世の雲の適任がいないのも事実なんだが」
「そんなの知らないよ。あんなヤツ勝手に死ねば良い」
「お前、結構言うことが過激だよなー…」
「暢気なだけの男は黙ってて」
 思わずぽつんと呟くと、ギロリと睨まれたので曖昧に笑って返しておいた。
 すると直ぐにこちらに興味を無くしたのか、気ままな雲はガタンと音をさせて椅子から立ち上がった。帰るつもりのようだ。
 それは初代にも分かったのだろう。いつもの何を考えているか分かりにくい表情で、気ままな雲を見上げた。こちらは腰を椅子から上げようともしない。その上足と腕を組んでいて、そういえば人に物を頼む態度ではないなと今更ながらに気付く。
「帰るのか?」
「当然。そんな話を引き受けるわけがない」
「二世の雲にはならない、と」
「くどいよ、初代。あまりしつこいようなら先に君を殺すけど」
 本物の殺気を発して睨み付ける彼に、初代はマイペースに言葉を続けた。
「二世の雲になったら、四六時中、二世の雨と一緒に入れるんだが」
 ぴく、と気ままな雲の肩が揺れた気がした。
 あぁ……と初代の雨は苦笑を浮かべた。
 初代が、切り札の二つの内、一つを出してきた。
 余裕たっぷりの表情で笑みを浮かべる初代は、足を組み直して気ままな雲を見上げる。その様が、見上げているというのに見下ろしているような感じを与えるのは、初代様だから、と言うところなのだろうか。
「お前、二世の雨にやけに懐いていたな」
「……」
「小さな嵐ともたまに遊んでやっているようだし。小動物系に弱いのか?」
「…そっちは、単に放っておくと逆に面倒だから付き合ってるだけ」
「成る程な。ところで、二世の雨の方では言い訳を聞かなかったんだが?」
「……君、本当に今ここで殺しておこうか」
「止めてくれ。死にたくないしな」
 本心からの言葉ではないのだろうその言葉に、そろそろ気ままな雲の血管の方が耐えられなくなりそうだった。見てるこっちがハラハラする言葉のやり取り、というのは本当に勘弁して欲しい。
 しばらくの間、二人の視線がかみ合ったまま降着する。
 …そして、先に折れたのは気ままなはずの雲の方だった。
 彼は嘆息して、了承の意を述べたのだ。
「…分かったよ。二世の雲になってあげる」
「それは良かった」
「……このまま粘ったら、また君の作り上げた無機物を食べさせられる気がするしね」
 そう言う気ままな雲の顔は、どこか青い。
 思い出したんだな、と、事情を知っているこちらとしては同情を禁じ得ない。初代の手作り料理の出来を誰よりも知っているのは、初代に日本料理を教えようとした自分と、その時に出来た料理を無理矢理食べさせられてしまった彼くらいのものだろう。
 しかし、それを本人が知らないというのがこの状況の一番の問題なのだ。
 初代は首を傾げ、キョトンとした表情でこちらを見た。雲でなく、雨の方を。
「何で雲はこんなに怯えているんだ?」
「あ……うん、まぁ、色々あるんだと」
 本当のことは言っても信じてもらえないか、気にされないかのどちらかだろうなぁと、初代の雨は引きつった笑みを浮かべるしかなかった。








ちなみに裏設定。
このサイトでは初代の作り出す無機物がポイズンクッキングの原型です。
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