お題：林檎 06.スクランブル交差点

四年間の、初めの方かな…。
ティエリアの話。

---

06．スクランブル交差点



　たくさんの人間が通りゆく場所。
　煩いほどの気配に包まれて。

　以前までは騒々しいとしか思わなかったそれ。
　今ではもの悲しさを生み出すことしかないそれ。

　悲しいと、言う資格はないのだと知る。知るまでもなく、識っている。
　それは、世界を変えた自分たちに与えられた罰の一つだ。

　一歩足を踏み出せば、紛れる雑踏のその止まることを知らない様子。
　どこへ行くか、彼らにとってはそれが決まり切っていることなのだろう。
　今、どこへ行くべきともしれない自分とは違って。

　いや、行くべきは知っている。
　今までと同じ場所へ、今までとは違う気持ちで行くべきなのだ。


　同じ場所、同じ目標を持って。
　今までとは違う想いを持って。


　それがどれ程難しいことか、今の自分になら少しは理解できる。
　以前なら、理解どころか分かることすら無かったかもしれない。

　一年経てば、もっと理解できるだろうか。
　二年経てば、だいぶ理解できるだろうか。
　三年経てば、全てを理解できるだろうか。

　分からない、定まらない、曖昧なことだらけの、今。
　かつてはそうではなかった。
　分かり、定まり、ハッキリとしていた自分の世界。
　それが仮初めだと気付くまでは、そうではなかった。

　外から定められた世界が全てでないと知ったのは、外からやってきた異邦人によって。
　中で定められたことのみをすればいいワケでないと、理解したのは己によって。

　人混みの中、押されながら思う。
　自分は、人によって『ひと』になった。

　この雑多とした交差点。
　そんな、多くの人間と人間が出会い、すれ違い、去っていくこの場所。

　ここに、自分を変える誰かがいるのかもしれない。
　ここに、自分が変える誰かがいるのかもしれない。

　そんなことは考えても当然のように分かりもしなかったが、しかし、分かる。
　それは今は気にするべきではないのだ。分かるときには自然と分かる。
　それまでは、流れに身を委ねておけばいいのだ。

　怠慢ではなく息抜きは必要だと、教えてくれたのは誰だろう。
　こちらに来ようともしない、届かない物に手を伸ばすのは無駄だと教えたのは。
　手が届く所に来るまで待つことも必要だと、教えてくれたのは。
　肩の力の抜き方を、柔らかな考え方を。
　教えてくれたのは誰だろう。

　誰でも良い。
　どうせ、もう、いない。

　共に戦っていた三人は全員が、死亡か行方不明となり。
　組織に残ったのは、己だけだ。

　ぴたりと足を止めて、空を見上げる。
　人混みの中、見上げた空は悲しいほど澄んでいて。


　一人なのだと、嫌でも自分に悟らせた。



 

---

ティエリアは、一人について、どう思ったかな…？