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騒々しい音が止んだのに気付いて、マリナはふっと顔を上げた。
何だろう、何か、騒動が終わったのか。
先ほどとは打って変わっての静けさに、今なら外に出ても大丈夫なのではないかな、と思う。理由なんて物はそうと無いが、何となく空気がそういう物に変わったような気がしたのだ。なら、恐らく大丈夫だろう。今までもそうだった。
どうやら、自分は空気という物を読めるらしいのだ。その人が纏う雰囲気というのも空気の一種だし、場を満たしている感情だって空気だと言える。空気……あるいは、それと共にある気配、というところか。
この技能のお陰で、今まで結構生き抜いて来れたと思う。にっこりと笑う人から感じられる小さな殺気、目の前にあった料理からかすかに漂う危険な様子、ある時はプレゼントと称されて渡された物にまで警戒は感じられた。
「…ねぇ、シーリン」
「何かしら?」
「私、そろそろ出ても良いと思うんだけど…」
「……またお得意の『勘』なの?」
呆れたようにため息を吐くシーリンに、マリナは曖昧に笑って返した。そうするほかに出来ることは何もない。彼女はまだそれが『使える』技能だと思っているから肯定する態度を取るのだが、その他の信じようともしない人々に掛かると、どうしたって呆れではなくて哀れみを向けられるのだ。
全く、彼らは自分が何の考えも無しに行動や発言を行っていると思っているのか。ちゃんと、マリナにはマリナなりの考え方があるのだ。ただ、それを彼らが受け入れないだけ、それだけなのである。
だが、彼女は。
マリナは笑みを浮かべ、シーリンを見た。
「……でも、貴方は信じてくれるんでしょう?」
「…付き合いは長いから」
「ありがとう!」
ギュッと抱きついて感謝を述べ、直ぐに体を離してマリナは部屋のドアへと駆け寄った。
それから、ドアノブを捻って、開く。
すると、一番最初に見えたのは赤い頭。
驚いて、マリナは思わず声を上げた。
「ネーナ…!?」
「え?あ、皇女サマ!?」
「…あぁ、そういえばこの部屋に入ってもらったのか」
「え、そうだっけ!?」
びっくりしている様子のネーナに、そういえばと頷くヨハン、それからマリナの事を忘れていたらしいミハエルの反応に笑みを浮かべ、それからマリナは首を傾げた。
「それで……何があったの?」
「敵襲よ!あの眼鏡…今度会ったらとりあえず殴ろ。何か思い返すととっても苛つくの」
「んじゃ俺も一緒に殴ろー」
「ネーナの場合は殴る前に火を付けそうだがな…」
和気藹々と平和?に話している三人を見て、本当に危機は今はないのだとマリナは思った。なら、それはそれで良いのだけど。
ほうと息を吐いて、何となく周りの空気を読み取ってみる。
やっぱり、まだ、刹那は帰っていないようだった。
それを残念に思いながら、それでもさほど心配と呼べる物はしていない。多分、彼は問題なく無事だろうから。
それは別に、空気を読む技能を使わなくても分かる。
何故なら、そのくらいは普通の勘でも分かる事だから。