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その新しい登場人物、パトリック・コーラサワーという誰かを見て、ダブルオーはただただ何も感じずトレイを手に持ったままに立っていた。
じゃれつきそうな勢いのコーラサワーに、刹那は鬱陶しそうにしている。恐らく、こうなることが想像できたからこそ、刹那は自分に財布とトレイを持たせて自分だけ逃げようと思ったのだろう。賢明な判断だったのだと、今この様子を見る限りではダブルオーも思う。これは……逃げたい。
成る程と納得しながら、しかし、ダブルオーはただただ感じた『違和感』に無表情ながら、思考を巡らせていた。
それは、刹那を見たときに感じたのと同じ『違和感』で。
変だと思うのだ。だって、自分は二人に対して『何も感じなかった』のである。
有り得ない、事態だった。
必ずといって良いほどに、今では刹那たちに感じることが出来なかったから殆どとしか言えないのだが、ダブルオーは初対面の相手に対して何かを『感じる』のだ。それがどういう類の感覚なのかは自分で理解しているし、問題もないのだが。
だからこそに、そんな自分の感覚が彼らに対して何も感じないというのは、本当に普通ではないことだった。
「んで刹那、そっちの小さいお嬢さんは?」
「…ダブルオー、という」
「ダブルオー?変な名前だな」
「本人を前にそういうことを言うな」
「っと……それもそうだよな。ごめんなぁ、嬢ちゃん?」
「…別に」
申し訳なさそうに言うコーラサワーに首を振ってみせ、ダブルオーはいつの間にか進んでいた列の一番最初に押し出されたので、とりあえずトレイをレジ台の上に置いた。喋っている間もちゃんと仕事をしていたらしい…感心である。
「おまけサービスでそのパンくらいはタダにしてやるよ」
「良いのか?後でどやされても俺は知らないが」
「大丈夫だって。俺が買ったって事にするだけだしな」
再会の記念だと笑う彼に、呆れた様子の同伴者。
そんな二人の様子を見ながら、ふっとダブルオーは口を開いた。
「…どういう知り合い?」
「昔、ちょっとした事件に一緒に巻き込まれた相手だ。途中で別れて、俺はアレルヤたちに助け……出会った。…そういえばお前はどうして?」
「俺もなー、多分刹那と似たような感じだぜ」
「…保護者がいるのか」
保護者、その言葉をダブルオーは脳内で少し咀嚼した。
保護者というのは子供を責任持って育てている人の事。だけれどこの場合はそうではなくて、本当に『保護』してくれる『者』の事を指すのだろう。
事件に巻き込まれたというが、それは果たしてどのような事件だったのか。場合によってはそれは、酷く大切な何かになるのかもしれないが…それはそれか。
あくまで他人のことだと自覚はあるダブルオーは、その点には触れずに二人の話を黙って聞くことにした。
「今の職はケーキ屋か?」
「いんや?これは単にバイトだってバイト。俺様がこんな地味な仕事やるわけねーだろ」
「…地味か?……いや、それよりも…では何を?」
「狩人やってんだ。ちゃんと相手は悪いヤツだけだぜ?」
「……そうなのか。てっきり、俺は敵対するなら人間とかと思っていたんだが」
「まー、最初はそれに近かったかもな。けどなー、すっげぇ良い女に会って改心した」
……本当に、事件とは何なんだろう。
深刻な意味で、ダブルオーはそれがとても気になった。