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今回は、アニューがまだ出かけてない頃のイノベイターの話。
最も、イノベイターじゃなくてイノベイドなんですけど、実際は。
そういう細かい部分は考えないことにします。
09.食パンの耳
「アニュー、今日の昼食は何ですか?」
「サンドイッチよ。良かったら手伝ってくれる?具を挟み込むだけで良いから」
「…まぁ、そのくらいなら構いませんが」
「ふふっ…ありがとう、リヴァイヴ」
ニコリと微笑んでやると、ふいと視線を逸らされた。けれど頬が少し赤い。照れているのだと容易に推測できて、アニューはさらに笑みを深めた。
そこは、イノベイターの本拠地の艦の中だった。多分というか、別に自分が作らなくても自動で料理を作るための設備はあるのだと思うが、そこはやはり人の手が入っていた方が暖かみがあって良いだろうと思っての毎回の、今回の行動だ。
最初こそそんな無駄な、と呆れるように呟いていたリヴァイヴや、物好きだね、と苦笑していたリボンズも、今ではたまに手伝ってくれるようになっている。ヒリングやブリング、デヴァインは最初から手伝ってくれていたけれど。リジェネはと言えば……反対はしないのに手伝いもしなかった。らしいといえばらしいのか。
「…アニュー、ちょっと訊いて良いでしょうか」
「あら、何かしら」
リヴァイヴは耳が切り取られた食パンを二枚手に取り、傍にあった皿の中にある物を見て首を傾げた。
「このパンの耳、どうする気ですか?」
「気になるの?」
「そういうわけではなくて、このまま捨てるならあまりに勿体ないと思っただけです」
どうなんです?と再度問われて、こんなことにまで考えが及ぶようになってくれるとは、とアニューは少し喜んだ。昔なら普通に「捨てる」とか言い出しそうだったのに。それが勿体ないと気付いたのは、自分を手伝ってくれるようになってからだろう。
「それはね、お昼を食べた後にでも後でカリカリに揚げたりとか…まぁ、つまりはお菓子に作り直すつもりよ」
「あぁ、そうなんですか」
「ちょっと甘いかもしれないけれど…お菓子だし良いわよね」
「……あまり甘すぎるのは止めてくださいね」
げんなりとした表情で、リヴァイヴが零す。
「食べていて胸焼けがしてきますから」
「リジェネとかヒリングとかは嬉しそうに食べてくれるのに」
「それはあの二人だからでしょう!?」
ついには絶叫をしたリヴァイヴを、ちょっと面白いと思いながら眺め、それでもそのままでは少しかわいそうだから大丈夫よ、と笑んだ。
「そこまで甘くする気はないから」
「…なら良いんですが……」
「…?どうかしたの?」
疑わしげにこちらを見る目をキョトンと見返すと、貴方は、とリヴァイヴは力強い調子で言った。
「以前そう言って……僕に物凄く甘い菓子を食べさせたことがありますからね」
「あれはイタズラよ。可愛い物でしょう?」
「全く!…あれが可愛らしいなんて言ったら、どんなイタズラも可愛らしいでしょうね」
「リジェネやヒリングのイタズラも?」
「……あれは」
先ほどとは別の意味で、リヴァイヴは視線を逸らした。
「…比べるには次元が違いますから」
「ほら、可愛い物じゃないの」
「ですから、比べるような対象ではないんです!」
「そうかしら…」
別に、比べてしまっても問題はないと思うのだけれど。
しかし、こう言い出すとリヴァイヴは自分の意見を変えたりはしないだろうし。何を言っても説得は出来ないだろうと思ったアニューは、言うのを止めることにした。時には引くことも大切だ。
「…それよりもリヴァイヴ」
「何ですか」
「そろそろ完成だから他のみんなを呼んできてくれないかしら。私はお昼の準備をしておくから」
「分かりました…リジェネは呼ばなくて良いですよね」
「呼んで」
「……分かりました」
これはまたリジェネに何かやられたのだろうと推測できたが、何があったのだとしても昼食は全員で一緒に食べるべきだ。
皆を呼ぶために素直にキッチンから出て行くリヴァイヴの背を見送って、アニューはくるりと体を再びサンドイッチの方に向けた。
「さぁ、私も準備しましょう」
ほのぼの同じ塩基配列さん。
とりあえず平和が一番だと思うのです。