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早く帰らなければ、というのは分かっているのだが、どうしても彼の今の様子が気になって来てしまった。それに対してダブルオーが怒るどころか納得の意を示してくれた事には、素直に感謝をしようと刹那は思った。同時に、しばらくここにいても良いと伝えてくれた彼女の言葉に甘えよう、とも。
こんな再会が何の役に立つとも分からないのだが、それでも嘗ての知人の今が知りたいと思ったのはやはり、過去のことを引きずっているからなのだろう。
そして今、ほんの少しの躊躇いを刹那は覚えていた。
自分たちとは実に、嫌な意味でなじみの深い相手と再び相まみえたことを、果たして彼に伝えるべきだろうかと考えていたのだ。
果たして、これは伝えるべきなのだろうか?考えてみても結論は出ないが、言ったところで相手にプラスになるような事柄は一つも起きないだろうし、不快感を与えるだけの可能性もあるのだし……言わない方が、もしかしたら良いのかもしれない。
ただ、あの男がまだ生きて存在してこの世界にいるという事実くらいは、伝えた方が良いのではないだろうかとも、思うのである。
この場合は、一体どうすれば。
どれが一番最良の選択なのか。
「…刹那」
「……あ、…あぁ、ダブルオー、何か用か?」
「…何を?」
首を傾げてのこの言葉は、どうやら自分が何を考えていたのかと問いかける類の物であるらしい。そろそろ彼女の言うことが正確に把握できるようになってきたことに苦笑しながら、刹那は台所の方に消えた二人の狩人を思った。この場合は特にちゃらけた感じの赤毛の方を。
「あの炭酸に、俺が知っているとある事実を話すべきか話さないべきかと、考えていた。知ってもあまり役に立たないかもしれない上に、逆に相手に不快感を抱かせたままで終わりかねない事実なんだが……あの男に関しては、アイツも関わりがあるからな」
「…再会?」
「そうだな。再会の話だな」
本当に最悪の再会だったが。
まぁ、あちらにとっては何も思わない再会だろうが。
それが……何とも苛立たしい。
「ソイツが今どこにいるかは分からないが、とにかく生きていることだけは分かった。だからそれを伝えるべきか、と…」
「…どういう相手?」
「最悪の人間だ」
その言葉は、自分でも思った以上に強い調子で紡がれた。
心の底から、そう思っているから。
それ以前にまず、あの男を形容する言葉はこれ以外にないのだと、あの男を直に知っている自分だから言える。関わったことのある者ならば誰もがこう形容するだろう。ただし、最悪だからこそ親しくできる者もいるのだが。
「あの男さえいなければ、と何度思ったか分からない。アレルヤたちに会うキッカケを作ってくれたことに対しては、多少は感謝しているが。それだけだ」
「嫌い?」
「そうだな…嫌い、ではないかもしれない」
「…では?」
「大嫌い、だ」
そんな表現でさえまだ、生温いような気がするけれど……これが妥当なところだろう
自分は、憎める程にあの男を知っているわけでもない。
「そんな相手の話を聞いて、アイツが良い顔をすると思うか?」
「……分からない」
ダブルオーは、そう言って首を振った。