シークレット・メモリー 着物の話

ようやく新キャラ登場。そして久しいシークレット・メモリー。作品数二桁くらいは行きたいものですが。
ていうか、リボーンの長編をやりたいとも、思う今日この頃。

---

　二世の雨は、それを見て目を丸くした。
「…何だ、それ」
「あら、分からないかしら？」
　クスリと、それを持っていた女性は笑みを浮かべて、広げて見せた。
「知らなくても無理はないと思うわ。日本の方の衣装だもの」
「日本……ってことは何だ？初代の雨か？」
「そうそう。お土産にって買ってきてくれたのよ」
　綺麗なガラでしょう？そう言って好ましげに衣装を見やる彼女を見て、衣装を見て、まぁ確かに、と心の中で頷く。薄い桃色のその衣装には、その桃色よりも濃い桜の花びらが散っていて、言われるまでもなく綺麗だと思えた。
　袖のところが広がっていたり、傍にある薄くて長い布は何だろうと、疑問には思ったのだが。何せ、このような物を見るのが初めてである。
　そんなこちらの考えが分かったのか、彼女は笑みを深くして長い布を手に取った。
「これは帯というそうよ。こちらの衣装……着物というのだけれど、これを着て、その上から押さえるための物らしいわ」
「押さえる？」
「前がはだけないようにね。放っておいたら開いて前が見えてしまうようなデザインなのよ、これは」
「……」
「あら、訝しげな顔。どうしてこんな風にしてるのか分からないのかしら。そうねぇ……帯は、私たちの服のボタンみたいな物、だと思えば良いんじゃないかしら」
「…あぁ、成る程」
　そういうことなら納得できる。
　袖の広がり方は説明がないのだが、これはデザインだとしか言えないのだろう。そう考えればこちらも理解できるのだ。イタリアにだって、無駄な装飾を好む輩は多い。正直、そんなジャラジャラとつけて身動きは取りにくくないのだろうかと、首を傾げるような思いなのだが。
　ふぅん…と呟きながら、その着物とやらを箱から取り出している彼女の手元を眺め、それに気付いた瞬間に思わず目を細めた。
　別に、嫌な意味で、ではない。
　むしろ逆だった。
「二枚組か…」
「あら本当」
　彼女が取り出したのは、これまた薄い水色の着物だった。傍にあった帯は白。
　こちらの着物には、ガラと呼べる物がなかった。ただ水色なだけで、そのシンプルさが二世の雨には好ましく思えた。選ぶとしたら、多分自分はこちらを選ぶだろう。もっとも、選ぶことはないだろうが。
　何せ、見るからにそれらは女物なのである。初めて見る衣装だからといって、それが必ずしも分からないというわけではない。色を見れば何となく想像は付くし、デザインを眺めてみても然りだ。決め手はとりあえず、彼女に贈られている物だ、ということだろうか。まさか、女に男物を贈るようなマネはしないだろう、初代の雨といえども。
　そんな衣装だったが、しかし。
　彼女は、何かを思いついたようにニマリと笑った。
「ねぇ、貴方が青い方を着てみない？」
「…………は？」
「良いわ、きっと似合うわね」
「………ちょ」
「じゃあ、私は桃色の方を着ることにするわ。一緒に着て、二世に見せにでも行きましょうか。反応が楽しみだわ」
「……いや」
「そうと決まれば善は急げ、ね」
「決まってねぇし！ていうか着る気ねぇから！」
　どうにかそれだけを振り絞るように言ったのだが、あら、と彼女はキョトンとした表情を浮かべた。それに、ほんのり危険な臭いをかぎ取る。
　そして、案の定。
「良いじゃないの、別に。減る物でもないでしょう？」
「そーいう問題じゃねぇ！」
「じゃあ、どういう問題なのかしら」
「プライドとか何とか…とにかく俺は男だろーが！それと、この着物だったか？こいつらは間違いなく女物だろーがッ！」
「そんな事を気にしてるの？大丈夫よ、」
　ポン、と彼女の手が自分の肩に乗せられる。
「きっと似合うって言ったでしょう？」
「だから、そーいう問題じゃねーんだよーッ！」
「男ならいい加減に観念なさい」
　開いていた片手に白の帯を持って、彼女は笑った。
「それに、剣を持たない貴方が私に勝てるわけがないでしょう？」
「…」
　その言葉に、ついつい口をつぐむ。言われてみればその通りだと、一瞬でも思ってしまったのである。
　何せ、相手は女性とはいえ二世の守護者の一人…しかも、晴れの守護者なのだから。

---

二世の晴れの守護者はオカマじゃなくて女性にしてみました。もういっそそれでも問題ないのではないだろうか。なんて思ってしまったのが原因です。