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というわけで②。この話は長く続く可能性大なので、別の話を途中で上げたりするかも。
今回はついにあの人がでます。
慶次に案内をしてもらって、分かったことがいくつかあった。
彼は、とても顔が広い。
道行く先で必ず一回は声をかけられ、慶次もそれに明るく返している。当たり前のように交わされる挨拶に、いつきは密かに抱いていた不安を少しだけ打ち消した。
「慶次、おめぇさんは人気なんだべな」
「ま、この街は俺の故郷だし。街の住人は全員が親しい隣人みたいなもんさ」
「すげぇだな…」
自分の故郷も住人はとても仲良しだったけれど、こことあちらでは規模が違うことくらい自分にだって分かる。全員と仲良くする事なんて難しいに違いない。それでも親しく人々と付き合うことが出来るなんて、凄いと言う意外に形容のしようがなかった。
思わず尊敬と畏怖の念を込めた視線を送ると、どこか彼はむず痒そうな表情を浮かべた。あまりこういう視線には慣れていないのかもしれない。
「このくらい普通だって…あ、政宗!」
と、ここで誰かを見つけたらしい慶次が、ぱあぁっと顔を明るくした。
知り合いか?と思っている間に彼はビュンとその人の方へと行ってしまった。正確には、その人『たち』だったのだけれど。
慌てて追いかけて追いついてみると、そこでは本当に不思議なことが起こっていた。
慶次はとても楽しそうで、それは先ほどの様子を見れば理解できる。
けれど、残りの二人が何だかそれぞれ反応が違いすぎだった。
まず、恐らく『政宗』であろう人物は、普通に慶次を受け入れていた。
次に、もう一人の誰かは、本当にトゲトゲした視線を慶次に向けていたのである。
……顔が広くて、街の住人は全員が親しい隣人ではなかったっけか。なのに前者はともかく後者の反応ってどうだろう。慶次は気にしていないようだし、もしかしなくてもこれがいつもの反応で、実はこれが常態なのだろうか。
…………いやいや、まさかそんな、普通の常態でこんなとげとげしくて冷たい視線を送るような人がいるわけがない。というかいて欲しくない。
いつきがそんなことを思っているとも知らず、三人の話は続く。
「久しいよなー。もうちょっと頻繁に遊びに来いって。幸村も寂しがってたよ?」
「さっき会ってきたから問題ねぇよ。ってか寂しいって何だ寂しいって」
「えぇ?だってさ、知り合いに一週間くらい会えなかったりするんだから、寂しくなったって不思議じゃないと思うんだけど」
「それは貴様だけであろう、風来坊」
「酷っ!?」
「事実を述べたまでよ」
鼻で笑って、あのトゲトゲとした冷たいけれど敵意は無い視線を向けているその人は、そこでようやくいつきの存在に気付いたらしい。顔をこちらに向けて、あまり関心のない目で自分を見た。
「風来坊、こやつは」
「あぁ、いつきのこと?明日から前田の茶屋で働く子だよ。今日は俺が街案内してんの」
「ほう…嘘ではないようだな」
「ちょ、何でそこで嘘とか嘘じゃないとか出てくるんだよ!」
「恋やら愛やらに現を抜かす者の言葉など額面通り素直に信じる気はない。我は我の見た物しか信じぬのだからな」
「アンタ…相変わらず良い性格してんね…あ、そうそう、いつきにも言っとかないと」
他人事じゃないしな。
そう続けてから、慶次は言った。
「コイツは毛利元就。あだ名はオクラ」
「慶次、殴られるぜ」
「政宗、我は殴るなどと生やさしいことはせぬぞ。我を貶める者には死あるのみ」
心底呆れたように言う『政宗』と、それに腕を組んで言葉を重ねる元就に、慌てたのは慶次だった。このままでは本当に殺されるとでも思ったのか。いつきも、放っておけば死ぬんじゃないかとは思ったが、それにしても。
毛利元就とは怖い人だ。
そう覚え込んでいる間にも、見えるのは慶次にジリジリとにじり寄る元就。
「覚悟は良いな、愚かなる風来坊」
「じょ…冗談だって!だから許そう?な、な!?」
「どうだかな。お前がそのあだ名を言いふらしてるってチカも言ってたし」
「政宗お前どっちの味方!?」
「どっちでもねぇ」
「そんなぁ!?」
慶次の悲壮な気がしなくもない叫びが響く頃には、彼は完全に追い詰められていた。後ろには壁で、前には元就。この状況で逃げるとしたら横か上だが、どちらも元就は許してはくれないのだろう。直ぐに反応される気がする。
これが親切な慶次の最後かと思うと何となく思うところがあるような気もするが、これは完全に自業自得なので放っておくことにした。見ている方が面白そうだし、何だかんだで最終的には死なないのだろうし。
「にしても賑やかだべな…」
「これがこの町の普通だぜ、嬢ちゃん」
「嬢ちゃんでなくて、おらはいつき…」
降ってきた声に応じて顔を上げて、いつきは。
その片方しかない目に、息をのんだ。
いつき、政宗と元就と初顔合わせ。