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政宗は、やっぱりこうするしかなかったというか。
これ以外に当てはまる事がないというか。



 その目の奥に、魅入られる。
 この目は何だというのか。ひどく、美しい。
 故郷で降った雪よりも、氷で作り出された結晶よりも、透明な水晶よりも、どのような金銀財宝よりも、その目を美しいと思う。
 美しく、冷たく、冴え冴えとした。
 それは『蒼』の気配。
 その気配を前に、自分は何をしているのか?目の前にして、立っているだけなどと、その様なことをしていて果たして許されると?
 否。
 答えは否だ。
 地に手をついてひれ伏すべきなのだ。かような存在を前に、平常通りの振る舞いを行うなど何と常識に外れる事か。そのようなことはあってはならぬ。この相手は傅かれ跪かれるべき存在なのだから。
「いつき…何やって…」
「お前…」
 困惑したような慶次の声に被って、その『蒼』の声が聞こえる。
 魅入ってしまった後なれば、その声にさえ畏怖を感ず。地に膝をついて額をこすりつけ、ただただ再びその目を見ぬように。耳を塞ぎたくもあったが、それは無礼というものであろうと、つまりは耐える選択を選ぶほか無く。
 自分のその思いが分かったのか、努めて穏やかにしたような声音が耳に届く。
「楽にしろ。俺のことは政宗と呼べば良いし、平服する必要もねぇ。お前が慶次にするような気楽な態度を取れば良いんだよ」
 その言葉に。
 いつきの中の『何か』が、静かになりを潜めていくのを感じる。
 同時に気付く。どうして自分は跪いていたのか、平伏していたのかと。初対面の相手に一体何をしていたのだろう。先ほどの行動が恥ずかしく思えて、赤面しながらいつきは立ち上がった。
 それから政宗を見上げたが、目と目があっても先ほどのような妙な感情は起きなかった。
 ただ、普通にその目が綺麗だなと思うくらいで。
「……お前、雪女か」
「そうだべ。おらは雪女の妖だ」
「俺は竜だ。と、こう言えばさっきの行動理由は分かったな?」
 理解したか?と言われ、頷く。成る程、それなら分かる。分かるほかになかった。
 しかし分からないらしいのが慶次だった。元就はどうやら思い当たる節があるらしく、黙ってこちらの様子を見ている。博識なのかと、彼に関しての情報を頭の中で書き足す。
「なぁなぁ、どういうコト?俺全く分かんないんだけど」
「雪女ってのはな、竜の配下なんだよ」
「配下?」
 本当?と言わんばかりの視線に、いつきはこくりと頷いた。
「そうだべ。政宗の言うとおり、おらたち雪女は竜には絶対服従なんだべ」
 それは、とてもとても昔の話にさかのぼるという。
 何千年も昔、とある雪女が竜に命を助けられ、その時に礼にと差し出したのが己の身だったということが始まり。
 以来、雪女は竜には逆らえないのだ。
 その雪女が当時の雪女の代表であり、その言葉は雪女全ての言葉であったから。そして、自分たちのような存在は言霊には、弱い。
 きっと他にもこういう関係はあるだろうと思う。妖の中でも特に力を持つ三種族のうち一つの話でしかないのだから、これは。残りの二つでも、似たような話はあるに違いなかった。だって、そういうものだから。
 それにしてもと、いつきは政宗を見上げたまま息を吐く。
「おら、こんな所に来てまで竜に会えるとは思わなかったべ」
「それを言うなら俺もだな。何百と生きてきたが…今まで雪女がこんな夏は暑いような所に来たことは無かったからな」
「何百年も、だか?」
 様子からして、てっきりもっと若い竜なのかと思っていた。最も、あまり竜の外見に詳しいわけでもないから分からない、というのが正しいところなのだけれど。
 そういえば竜がこんなに人間のいるような場所に住んでいるなんて…信じられない。竜の里なら雲の上にある、なんて言われているような存在であるというのに。
 思わず驚きを大きく出してしまっていると、楽しそうな苦笑が向けられた。
「ま、諸事情ってのがあるんだよ」
「諸事情、だべか」
 それがどのような『諸事情』なのか、気になりはしたけれど触れてはいけないような気がして、いつきはそれに関しての質問を控えることにした。多分、間違った反応ではない。現に政宗はどこか面白げにこちらを見ているではないか。
 竜の前で選択を間違えなかったことにホッと一息吐いて、元就の方を見る。
「そういえば、政宗とつるんでるあっちの人は何なんだべか?」
「アイツ?」
 政宗もいつきと同様にそちらを向いて…何を思ったか、にやりと笑った。
「訊くか?」
「…訊くべ」
 嫌な予感はしたが訊かなければ分からない。冷や汗を掻きながらも頷くと、深まる笑み。
「元就は、妖を祓う専門の人間だ」







そんな元就です。何かぴったしだと思うのはワタリだけか。
そして政宗はこうでしかありません。というか竜以外の政宗が想像できない。
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