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慶次に謝りたい気分ですが。まぁ、こういうとばっちりもありということでどうだろう。
さっきまでの和やかな雰囲気は一体どこへ。
いつきはそう思い、はぁ、と息を吐いて後方二名の方をチラリと見た。
つまり、先ほど一緒に街を巡ることになった元親と、先ほどは一人曲がり角の前で待っていた元就、である。
今なら元就があそこで立ち止まった理由が分かる。元親に会いたくなかったのだ。同時に、どうやら元親も元就に合いたくなかったらしい。二人とも、物凄く不機嫌そうな表情を浮かべているからよく分かった。
それでもいなくならないのは、政宗をおいていくのが嫌のだろうか。元親は幼なじみっぽいものだというし、元就は……よく分からないのだけど、親しいと言えば親しいのだろうとは分かるから。あるいはただ単に引き所が分からない意地の張り合いであるだけ、という可能性も無きにあらず、だけれど。
…そういえば、本当に、政宗と元就はどうして最初、一緒にいたのだろう。妖と、妖を祓う者が一緒にいる理由が全然分からない。悪さをしない妖だから、一緒にいても問題ないとかそう言う理由なのだろうか。
てんで想像が付かない原因に頭を悩ませている間に、辿り着いたのは呉服屋だった。
といっても、そこは服だけではなく布、履き物、巾着、装飾品、最終的には菓子まで置いてあったりして、呉服屋というには些か違う気もする。
呆然と店を見ていると、慶次がどこか自慢げに笑った。
「ここがな、謙信の店。呉服屋」
「それは見たら分かるべが…本当に呉服屋だべか」
じっくり見たら、玩具までおいてあるし。呉服たす何とか屋、みたいな感じな気がするのは自分だけだろうか。
だが、慶次はきょと、とした表情を浮かべた。
「呉服屋だぜ?」
「そうだべか…」
曇り一つ無い瞳でそう言われると、もうそうなんだろうとしか思えないから何とも。
はぁ、と息を吐く自分の隣で何故だか楽しそうに笑っていた慶次だったが、次の瞬間、彼の額に何かが刺さった。
え?と思っているまもなく、慶次はふらりと揺れ、そして。
倒れた。
「け…慶次ー!?だだだだだ大丈夫だべか!?」
「あはは…あれぇ……お花畑が見えるんだけど…」
「慶次、気をしっかり持つだ!」
「いつき、心配しなくても日常茶飯事だぜ」
再び飛んできた何かを受け止めて、政宗が言う。
「この呉服屋はな、気をつけねぇととばっちり食うんだよ」
「とばっちり、だべか」
「おう。ほら、あっち見てみな」
政宗が指さした方に視線を向ければ、そこでは、金髪の女性が派手な頭の男性に物を投げつけまくっている姿が目に入った。
唖然。だが、やはり政宗は慣れた様子である。
「ったく、佐助のヤツももうちょっとちょっかい出すの止めれば良いだろうによ」
「佐助?あの派手ーな髪の男の人だべか」
「そうだぜ。んで、物投げてんのが、かすが。この店の従業員。ちなみに投げてんのは護身用の短刀」
ほら、と差し出されたそれを手に取ってみると、確かに、本物の刃だった。
へぇ…と思い、何か忘れているような気がして考え込み、ハッとする。
「慶次!こんなんくらって本当に大丈夫だべ、」
「あー…痛ぇなぁ。もう」
しかし、いつきの心配を嘲笑うかのように、慶次はいつの間にか復活していた。
「あの二人ってばもう少しくらい周り考えてくれればいいのに」
「喧嘩好きが何言ってやがんだ。テメェだって場所は考えねぇだろ」
「場所は考えないけど、周りのことは考えてるよ…多少は」
「多少ねぇ…どうだか」
「信じてないな、政宗!」
「信じれるわけねーだろ。てか信じて欲しいなら信じさせてみろ」
は、と政宗は笑った。
…いつきはもう、これ以上何か信じられないことが起こっても、あまり驚けないのではないだろうかと思い始めていた。だって、慶次に刺さった短剣は見事に急所に命中していて、確かに血が出てたはずで現在も止まってないのに、何でこんなに元気なのか。
有り得ない。
そこまで思って、ふっと、そういえば鬼と人間のあの二人はどうなっているだろうと後ろを向いて、驚く。そこにいるはずの二人がいない。
同様にソレに気付いたらしい政宗が、あー、と唸りながら頭を掻いた。
「…アイツらはぐれやがった」
「探しに行くべか?」
「俺だけな。お前らは街、まわっとけ」
んじゃ、ここでサヨナラだ。
そう言って、政宗はひらりと手を振って離れていった。
そうしてまた、最初の二人に戻るわけです。