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界風の街の人々シリーズ第一弾。
ちょっと過去入ってる感じです。
かすがにとって、謙信という存在はとても大きいものだった。
界風という街にやってきて右往左往していた自分を、見つけて優しく拾い上げてくれたのは謙信であり、以来、ずっと自分をこの店においてくれているのも同様に。
どうして自分がここに来たのか、元はどこに住んでいたのか。
何も、言いたくないことは言わなくても良いと言ってくれるその人が。
かすがは、とても大切に思っているのだ。
だから。
「謙信様ッ!」
たまに、その人が倒れているのを見るのはとてもとても辛い。
買い物から帰って直ぐに、店の奥で見つけた床にうずくまる人影。それが謙信であると察するのに、それ程長い時間は必要としなかった。日常茶飯事ではないが、既にこういう事があるのだと慣れてしまうくらいには、この光景を見ていた。
手に持っていた買い物袋を投げ捨てて、かすがは謙信の元へと向かう。
抱き起こせば、血の気の無い顔が見える。
こう言うときは…そうだ、意識を、ハッキリさせなければ。
「謙信様!謙信様しっかりしてください!」
「う…」
応答があった。
それを見取って、かすがは軽く謙信の体を揺すりながら叫んだ。
「謙信様!」
「………かすが…です…か」
「はい…謙信様」
うっすらと目を開いた謙信に頷いて、そうっと体を壁にもたれさせてやる。そうすれば幾分かは辛さが減るハズだ。
実際、少しは落ち着いたようだった。まだまだ本調子では無さそうだったが、とても酷いとは言えない顔色で、謙信は静かに笑んだ。
「すみませんね、かすが」
「いえ…私は、大丈夫です。ですが謙信様は…」
「だいじょうぶですよ。もう、なれました」
「……」
「からだの、しかもながれるちのもんだいです。あきらめてつきあうほかに、てはないのですよ、かすが」
「…私は、そこまで割り切ることは出来ません」
「やさしいですね、かすがは」
「私は、謙信様が普通の、平穏な日々を送ることが出来ればいいのです」
もっとも、謙信が倒れなくなる可能性が低いことは、自分とて分かってはいる。
謙信は、人間と妖の間に生まれた子供だった。それは本来なら有り得ない奇蹟。何故なら人間と妖は相容れない。根本的に違う存在なのだ。表面だけ、外側だけなら親しくなれるかも知れない。けれども、そうは出来ない部分もある。
例えば、血。
人間と妖は、互いを否定し合う事がある。血はその最たるもので、人間と妖の間に子が生まれないのはそれが理由だった。生まれたとしても直ぐに死ぬ。体の中に流れる二つの血が、互いに争い合って蝕み合い、それがその血を宿し持っている存在にまで害を及ぼすのだから。
したがって、とても希な状況なのだ。謙信の、生きているという今は。
かすがとしてはその奇蹟を感謝したいと思う他はなく、その奇蹟が永遠に続けばいいとも思っている。
けれど、それは無理だろう。
天命まで生き残れたとして、それは他のどの人間よりも短いに違いない。
それが、宿命。
少なくともそう、謙信は受け入れている。
だが。
そんな終わり、かすがはまっぴらごめんだった。
どうにかして、何とかしたい。どうにかが何なのか、何とかが何なのか。それらが全く分からないままに、それでも謙信を助けたいと思ったのだ。助けるというのがどういう事なのかもまた、判らないままに。
何とかしたいと。
心の底から思ったのだ。
しかしその術を持たない自分は。
「…謙信様、今日の夕食はどうしましょうか」
「いただきますよ。ただ、すこしだけ…すくなくしてください」
「分かりました」
笑んで、かすがは投げてしまった買い物袋の元へと向かった。
何をすることも出来ない自分は、今できることをするほか無い。そして今できる事というのは、謙信の傍で支え、助けること。それをしながら、出来る範囲で方法を調べていく他ないのだ。
買い物袋を掴み、静かに目を閉じる。
その方法が、この世界にあることを祈りながら。
一体何を成すためのの方法かさえ、分からないままに。
平仮名喋りは難しい…思い知りましたよ…。