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この人なら犬くらい持っていたんじゃないかと思って。
17.忠犬
犬が欲しいとある時、言った。
次の日、部屋には何匹もの犬がいた。
「…ここまでは要らない」
その光景を見て、そう思った。
しかしまぁ、送り返すにしてもどれが誰からのものかが分からない、つまりは現状では送り返しようは無い。
困った。
本気で困った。
自分は犬の世話などしたことはないし、まぁそこは召使いにでも頼めば良いとしても。それでもここまでの量の犬、見ているだけでも鬱陶しい。
考えた結果、父に頼んでみることにした。
この犬たちを、どうにかできないかと。
対して、父はこう言った。
しばらく飼ってみると良いだろう、と。
思わず耳は付いているかと聞き返したくなったその言葉だったが、父には父の考えというものがあった。父曰く、しばらく飼ってみて、気に入らないものは追い出していけばいいだろうということだったのだ。
あぁ、良い案だ。
そう思えば、実行は直ぐ。
まず、餌を与えてみた。
そこで気に入るかはともかく、気に入らない存在は出てきた。
食べ方が、綺麗ではなかったのだ。
がつがつと、優雅さの欠片もない食べ方。所詮は獣かと思ってみても、気に入らないと思う心は募るばかり。仕舞いには、食べ終わる前にその犬たちを部屋から追い出してしまったりもした。見るに堪えなかったのだから仕方がない。
その後、その犬たちは自分に命じられた家人が始末したことだろう。
墓は作らなくて良いと言ったから、今頃裏庭に灰として混ざっているか。
しかし…それにしても、この方法は有効だったらしい。あっという間に、何匹も消えた。
「さて、次は…」
それから、色々なことを試した。
試した結果、残ったのは一匹だった。
まるで愚か者のように自分に付き従うその犬は、少なくとも自分にとっては見ていて痛快だった。何もせずとも自分のして欲しいと思った通りに動くそれを、そこそこ、気に入っているのは事実だったろう。
それでも直ぐ飽きるだろうと思っていたのに、意外なことに飽きは来なかった。それだけ、その犬は忠犬だったのだ。
そしてさらに意外なことに、その犬が傍にいても自分はどうとも思わなかったのだ。
鬱陶しいとも、煩わしいとも。
代わりに、好ましいとも思わなかった。けれども、その犬がいるのはまるで空気が存在しているのと同義語で、それによっていくらかは雰囲気が暖かくなったことは事実だった。
それから時が経って。
ほんの少しだけ大人になった自分は、以前よりも素直に自分の心に向き合っていた。
その犬に名前を付け、好ましいものと認識していたのである。
一年というのは、それだけ長かった。
「お前には、見せてやる」
以来というもの、自分は年老いていくその犬に優しく語りかけるようになっていた。
「私の夢が、叶う瞬間を見せてやる」
犬は、老いてはいたがまだ健康であるように見え、実際にそうであって。
だから、決める。
「お前が死ぬ前に見せてやる」
自分で決めた時間制限。
自分で定めた最大目標。
その目標が達成できないとは何となく分かっていたけれど。
それでも言う気になる。
そのくらいには、その犬の事が好きだったのだ。
どこぞのコーナー家のお坊ちゃんの話です。
こんな素直な?時があってもいいかなと。