式ワタリによる、好きな物を愛でるブログサイト。完全復活目指して頑張ります。
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久しぶりのこのシリーズです。
今回は過去話。しばらく続きますのでどうぞおつきあいの程を。
その子供は泣くことはなく、しかし何かに耐えるようにうずくまっていることが多かった。その状態になった後は物音も立てず、何も言わずに小石のようになる。
この離れ周辺に来るのは恐らく、この辺りは人気が全くと言っていいほど無いからだろう。結構な人間が住んでいるはずの邸だったが、自分がいる……否、『いることを強制されている』、本邸から完全に独立している場所には誰も好んでこようとはしなかったから。
誰にも、この姿を見せたくないのか。
それらの事実からそう結論づけて、障子の向こうを『視』続けた。本当は障子を開けて縁側に出ることが出来ればいいのだけれど、残念ながら自分にはそれをする事が出来ない。障子に触れればあっという間に手が爛れてしまう。
出来るのはただただ透視をすることだけだ。
……そんな日常が当たり前になっていることに気がついて、薄く笑う。人間のやることを興味を持って見たこともそうそうなかったのに、最近は何という風の吹き回しだろうか。昔の自分が見たら驚いて偽物だろうと詰め寄るくらいは、しそうだ。
けれども、あの子供が気になったのは事実。
だからだろうか。
ある日、何の気まぐれかは知らないが……子供に、話しかけていた。
「お前、どうしてこんな所に来るんだよ」
「……!?」
障子越しの言葉なので、当然彼には自分の姿は見えない。まさか自分以外の誰かがいるとは思わなかったのだろう、驚いた様子で顔を上げてキョロキョロと周りを見渡していた。
その様子が何とも面白く、思わず笑うとその笑い声で居場所を見当づけたのか、視線がこちらに向くのを感じる。中々に鋭く、少し気に入った。そして、気に入る…という響きに苦笑する。人間に興味を持つだけでなく気に入る、などと。
やはり、毛色が違うのだろうか、この子供。
「そなたは…誰だ。何故出て来ぬ」
「出れねぇからな。仕方ないだろ」
「…?どういうことだ?」
「アンタは知らないのか?この離れの事」
この離れには竜が住んでいるのだと。
そう笑いながら言うと、困惑の気配が強くなった。
「…どうして人間の住処に竜がいるのだ。竜とは空を駆ける者であろう」
「諸事情だよ、諸事情」
「諸事情では分からぬ」
声が近くなった。
既に『視』る事を止めていたから詳しくは分からないが、どうやら子供は近づいてきたらしい。勇敢なことだ。普通の子供なら、きっと怖がって逃げ出すに違いないというのに。
面白い。そういう無謀さは嫌いではない。
「父か母にかでも…とりあえず毛利家のヤツに訊いて見ろ。絶対に答えが返ってくるぜ」
「父も母もおらぬ。既に逝去なされた」
「…そりゃあ」
子供のとしからして何とも早いことだと、政宗は人間の脆さに呆れ返った。
「どうしたんだ?病か?」
「妖に殺されたのだ」
その言葉に思い出す。そういえば、毛利家は妖の専門家だったか。しかも祓う専門家。うっかり殺されずに生き残ってしまっていたから忘れていた。あと、ここには誰も人が尋ねてこなかったから、その辺りの知識も綺麗に忘れ去られていたのである。
しかし、成る程。それならこんな幼い子供が残されていくのも分かる。
「じゃあ…妖は嫌いか?」
「人間よりは好きだが」
「…人間だろーが、お前」
「その通りだが、我は生まれるのならば妖が良かったと常思っておる」
「そりゃまたどうしてだ?」
政宗は、その子供に深く興味を抱くようになっていた。掛け値無しに面白い。もう少し話して、色々と聞いてみたいと思うようになっていたのである。
ほんの少しの好奇心を秘めた疑問に、子供は答えた。
「人間は汚いであろう?」
子供が言うには、その言葉は重すぎる気がした。
思わず口を閉ざしたが、子供はそれにも構わず言葉を続けた。
「我の一族は妖を祓うのが仕事だが、そもそも我はその仕事が不思議でならぬ。話を聞いてみれば、人間の自分勝手な都合に対して妖が行動を起こしているようではないか。妖の領を犯しながら、かの者たちを侵略者と罵る人間など、嫌いだ」
「…同族をそう言ってやるもんじゃねぇよ」
「さようであろうな。だが、我にとってはこれが本当なのだ」
「…」
興味があっただけの子供。
その子供に、今抱いているこの感情は何だろうか。哀れみではないと確信はある。哀れみなど相手にとって失礼だ。自分だって、このような『鎖』に縛られても哀れにはいらないと思っている。そのような視線は必要ない。
「…お前、名前なんて言う」
「我か?我は松寿丸ぞ」
「ふぅん…んじゃ、俺のことは梵って呼べ」
幼少名に幼少名で返して、政宗は笑った。
そんな出会いの始まり。
この離れ周辺に来るのは恐らく、この辺りは人気が全くと言っていいほど無いからだろう。結構な人間が住んでいるはずの邸だったが、自分がいる……否、『いることを強制されている』、本邸から完全に独立している場所には誰も好んでこようとはしなかったから。
誰にも、この姿を見せたくないのか。
それらの事実からそう結論づけて、障子の向こうを『視』続けた。本当は障子を開けて縁側に出ることが出来ればいいのだけれど、残念ながら自分にはそれをする事が出来ない。障子に触れればあっという間に手が爛れてしまう。
出来るのはただただ透視をすることだけだ。
……そんな日常が当たり前になっていることに気がついて、薄く笑う。人間のやることを興味を持って見たこともそうそうなかったのに、最近は何という風の吹き回しだろうか。昔の自分が見たら驚いて偽物だろうと詰め寄るくらいは、しそうだ。
けれども、あの子供が気になったのは事実。
だからだろうか。
ある日、何の気まぐれかは知らないが……子供に、話しかけていた。
「お前、どうしてこんな所に来るんだよ」
「……!?」
障子越しの言葉なので、当然彼には自分の姿は見えない。まさか自分以外の誰かがいるとは思わなかったのだろう、驚いた様子で顔を上げてキョロキョロと周りを見渡していた。
その様子が何とも面白く、思わず笑うとその笑い声で居場所を見当づけたのか、視線がこちらに向くのを感じる。中々に鋭く、少し気に入った。そして、気に入る…という響きに苦笑する。人間に興味を持つだけでなく気に入る、などと。
やはり、毛色が違うのだろうか、この子供。
「そなたは…誰だ。何故出て来ぬ」
「出れねぇからな。仕方ないだろ」
「…?どういうことだ?」
「アンタは知らないのか?この離れの事」
この離れには竜が住んでいるのだと。
そう笑いながら言うと、困惑の気配が強くなった。
「…どうして人間の住処に竜がいるのだ。竜とは空を駆ける者であろう」
「諸事情だよ、諸事情」
「諸事情では分からぬ」
声が近くなった。
既に『視』る事を止めていたから詳しくは分からないが、どうやら子供は近づいてきたらしい。勇敢なことだ。普通の子供なら、きっと怖がって逃げ出すに違いないというのに。
面白い。そういう無謀さは嫌いではない。
「父か母にかでも…とりあえず毛利家のヤツに訊いて見ろ。絶対に答えが返ってくるぜ」
「父も母もおらぬ。既に逝去なされた」
「…そりゃあ」
子供のとしからして何とも早いことだと、政宗は人間の脆さに呆れ返った。
「どうしたんだ?病か?」
「妖に殺されたのだ」
その言葉に思い出す。そういえば、毛利家は妖の専門家だったか。しかも祓う専門家。うっかり殺されずに生き残ってしまっていたから忘れていた。あと、ここには誰も人が尋ねてこなかったから、その辺りの知識も綺麗に忘れ去られていたのである。
しかし、成る程。それならこんな幼い子供が残されていくのも分かる。
「じゃあ…妖は嫌いか?」
「人間よりは好きだが」
「…人間だろーが、お前」
「その通りだが、我は生まれるのならば妖が良かったと常思っておる」
「そりゃまたどうしてだ?」
政宗は、その子供に深く興味を抱くようになっていた。掛け値無しに面白い。もう少し話して、色々と聞いてみたいと思うようになっていたのである。
ほんの少しの好奇心を秘めた疑問に、子供は答えた。
「人間は汚いであろう?」
子供が言うには、その言葉は重すぎる気がした。
思わず口を閉ざしたが、子供はそれにも構わず言葉を続けた。
「我の一族は妖を祓うのが仕事だが、そもそも我はその仕事が不思議でならぬ。話を聞いてみれば、人間の自分勝手な都合に対して妖が行動を起こしているようではないか。妖の領を犯しながら、かの者たちを侵略者と罵る人間など、嫌いだ」
「…同族をそう言ってやるもんじゃねぇよ」
「さようであろうな。だが、我にとってはこれが本当なのだ」
「…」
興味があっただけの子供。
その子供に、今抱いているこの感情は何だろうか。哀れみではないと確信はある。哀れみなど相手にとって失礼だ。自分だって、このような『鎖』に縛られても哀れにはいらないと思っている。そのような視線は必要ない。
「…お前、名前なんて言う」
「我か?我は松寿丸ぞ」
「ふぅん…んじゃ、俺のことは梵って呼べ」
幼少名に幼少名で返して、政宗は笑った。
そんな出会いの始まり。
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