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もうこれはマイスターズ中心で良いのではないかと。
07.欠けた月
地上から見上げる月は、とても美しい。世辞無しに思う。
だからこそ、昔から人間は空を見てきたのだろう。そんなことを考えるようなガラでもない自分に、こんな事を考えさせるほどの輝きを持っているのだから。最も、あの輝きは月自身が作り出している光ではないのだが。
ともかく。
地上から見上げる月は純粋に綺麗だ。
では、宇宙で、間近から見た月は?
あんな物、見れた物ではないと思う。月の表面にはクレーターが多く存在して、見えるのはゴツゴツとした表面くらいの物。どこを取って美しいと言えるのかが分からない。
何という評価の違いか。我ながら、苦笑しかでない。
美しいどのような物も、近くより遠くから見ているのが一番と言うことなのだろうか。
そんなことは分かるわけもないと肩をすくめれば、隣から二組の不思議そうな視線が送られてきた。ライルの頭の中を見ることが出来るわけもないから、どうして肩をすくめたのか分からないからだろう、きっと。
そして、その視線の持ち主の内一人は、考えるのを止めて直接的に訊くことにしたらしい。刹那が口を開いた。
「どうかしたのか、ライル・ディランディ」
「ちょっと月を見て物思いをね」
別に隠すことでもないので素直に答えると、アレルヤが首を傾げた。先ほどから黙っているティエリアは…あぁ、寝てしまっているのか。何となく珍しい物を見た気分になって手を伸ばしてみたら、ピシャリと手を叩かれてしまった。残念、どうやら起きてはいるらしい。意識がハッキリしているかは定かではないが。
放っておけば本当に眠るだろうと見当を付けて、そちらは触れないことにする。ここで触れて機嫌でも損ねたら跡が怖い。
だからティエリアのことは気にしないことにして、言葉を続けた。
「何事も、遠くから眺めるのが一番かと思ってただけさ」
「……?どういうことだ?」
「遠くから見て綺麗でも、近くで見たらそうでもない場合もあるって事だ」
「……分からない」
どうせ見るなら近くの方が良いんじゃないか?
そう、本気で言っているらしい刹那にライルは苦笑を浮かべた。そう言えるのは、どこまでも彼が真っ直ぐだからかもしれない。
しかし、月に関しては同意するしかないに違いない。そう考えてふと、けれども刹那は月を綺麗だと思っているのだろうかという、根本的な部分に疑問を感じた。綺麗とも思わず、ただそこにあることを受け入れてしまっている気がする。
これはちゃんとした意見が聞けないと心の底で嘆いていると、自分から見ると実に意外なところから同意が返ってきた。
「分かります、それ」
「…?お前が?」
「はい。…何で疑ってるんですか」
少しばかり心外だという表情を浮かべてアレルヤが言うのだが、ライルにはどうにも信じがたかったのだから仕方がない。あのアレルヤが、こんな意見に同調するとは中々想像しにくいものがあった。
思わず自分の頬をつねってみた。痛い。
……本当に現実だった。
半分呆然としている間にも、神を称える名を持つ彼の言葉が続く。
「遠くにあると、あこがれとか、色々な感情のせいで美化されてしまうことが多いですから。だから、近くで見ると落ち込んでしまったり、と」
「何だ?アンタにはそういう経験があんのか?」
「えぇ…少し」
どこか苦い表情を浮かべて頷く彼に、ふぅんと呟くだけに止める。これは彼の過去の話だ。あまり無駄に詮索する必要もない。自分が兄に関して思うところがあるのと一緒。
よく分からないような、分かるような言葉をどうやって消化しようかと考えていると、ふいに刹那が口を開いた。
「それなら、俺も分かる」
「はぁ?刹那もか?」
「あぁ」
そう言って彼は瞳を閉じる。
「『外』は何かが違うと信じていたことがあった。あれと同じだろう」
「…『外』?」
「あ、多分刹那の思うので正解」
「だろう?」
「…お前ら、俺にも分かるように説明しろ」
二人の話に置いて行かれてしまったライルは、憮然とした表情を浮かべた。
けれどもアレルヤは申し訳なさそうな表情をするだけで、刹那はいつも通りの表情を浮かべているだけだった。まるで、分かるわけなど無い、と言わんばかりに。
それが、余計に面白くなかった。
ライルは良くも悪くも一般人って言う話。