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新羅はすごいと思うんですよね。もう主治医だよね。
静雄用にとコンビニで買ってきた昼食を取って元の部屋に戻っていくセルティを、新羅は何とも言えない気持ちで眺めていた。
彼女が怪我人の友人に付き添っている事について思う事がある…わけではない。当然、彼のせいではなかったとしても自分の大好きな存在を一人占めされているのだから、嫉妬という名の感情はあるけれど。それでも大丈夫だと思えるは、二人が友人だからだろう。……それでもしょっちゅう不安になるんだけど。
だってあの二人とんでもなく仲が良いから。
うらやましいなぁと思いつつ、新羅は改めて『何とも言えない気持ち』を抱かせる、目の前の椅子に気楽に座っている原因を見やった。
「で、君は何で来たのかな…臨也」
「ん?ちょっと新羅に訊きたい事があって」
「静雄がここにいるって知ってて?」
「何?シズちゃんに家壊されるかなって心配してるの?大丈夫だよ、あれだけ血を流して弱って無いわけがないだろ。いざとなったら新羅でも押さえられるんじゃないかな」
「…ってことは、やっぱりあの切り傷は全部君がつけたんだね」
「まぁね。…怒る?」
「今更じゃないか」
くす、と笑いながらの問いかけに、こちらは肩をすくめて見せた。
思えば二人が出会った学生時代からそうだった。臨也は静雄を出会い頭に切りつけて、トラックに跳ねさせて、色んな敵をさし向けて、挙句に罪までなすりつけたりした。今回が軽い事態というわけではないけれど、とんでもなく酷いうと言うワケでもない。
まるで二人の主治医のような立場に置かれてしまっている新羅からすると、今回のはまだまだ『軽い』方。思い返せばもっと酷い怪我だってあるのだ。
はぁ、とため息を吐いて、で?と目の前の押しかけ客人を促す。
「何を訊きに来たんだい?」
「どうして血って赤いんだろう」
「…えっと、それは専門的な話を聞きたいの?それとも抽象的な話?」
「出来れば後者だね」
足を組み、何が面白いのか笑みを浮かべて彼は言う。
「それで、新羅はどう思う?」
「どうも思わない。それに抽象的な答えなんて僕は持ってないね。赤いから赤い、それだけだなんじゃない?」
「つまらないなぁ……あ、運び屋の血は何色?」
「…えっと…多分、赤」
「ふぅん…」
「…臨也、今君が何を思っているか分かるから言うけど、人間じゃないから血が赤くないって言う事は無いんだよ?猫だって犬だって、赤い血を持っているんだから」
呆れながら言うと、そんなことは分かっているよ、という視線をもらった。
無駄に鋭いそれを受け流しつつ、自分用にと入れたコーヒーを啜る。全く、今日は臨也と静雄のせいですべてが台無しだ。今日は久々に自分とセルティの仕事が一つも入っていない、とんでもなく貴重な日であったのに。
治療費を貰おうかな…金が有り余っているだろう臨也の方に。
そんなことを半ば本気で考えていると、情報屋が突然立ち上がった。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ」
「仕事?」
「それもだけど、池袋のどこかにいるだろうドタチンを探そうかなって」
「へぇ…血はどうして赤いのかって、訊きに?」
「うん。ドタチンは新羅みたいに直ぐに切って捨てずに考えてくれるかもしれないし、彼といつも一緒にいるオタクの二人組が面白い話をしてくれるかもしれないし」
「それはどうかなぁ…」
面白いというか…むしろワケがわからない話をされるんじゃなかろうか。
あれも、内容が分かるならあるいは面白いのかもしれないけれど。
…ということは『面白い』とか言ってる臨也は…二人の同類?
嫌な考えに辿りついて、慌てて新羅は首を振った。それは嫌だ。別に他人の趣味に口出しする気は無いけれど、もしもそれが本当だったら恐ろしすぎる。
「新羅…どうしたの?突然に挙動不審になっちゃって」
「いや…自分の想像に空前絶後の恐ろしさを感じちゃって…」
「……何を思ったか気になるけど、あえて聞かない事にするよ」
先ほど以上に鋭く、しかし今回は受け流せない視線をこちらに突き刺して、彼は玄関の方へと進みだした。本当に出ていくつもりらしい。
気を取り直して、別れのあいさつ。
「…ま、その問いに答えが出たら教えてよ」
「考えとくよ」
簡単に答えて、臨也はひらりと手を振った。
それから一瞬だけ立ち止まって、直ぐに歩き出した彼の背はあっという間に見えなくなった。
玄関の扉の閉まるバタンという音を聞くころになって、気づく。
臨也が立ち止まったのはセルティが戻っていった部屋の前。
つまり静雄がいる部屋の前だった。
次でラストです。
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