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短めにするはずが予定よりは長くなっちゃいました。
そんな感じのハプティーズと故郷の話。しんみり状態から何か違う方向へ。
072:故郷
刹那の故郷はあったけれども無くなってしまったのだと言う。
ライルの故郷は、まだ残っているらしい。あまり帰る気は無らしいが。
ティエリアに至っては事情が事情だから、故郷なんて始めからないに等しい、らしい。
そして、自分は。
つい最近、その場所の存在を知った。
「僕にも……生まれた場所ってあったんだなぁ」
『ンな事ぁ当たり前じゃねぇか。お前がここにいる以上はな』
「うん。それはそうなんだけどね」
何と言うか……実感がない。
幼少期の記憶の欠落のせいなのか、まるで、生まれることなく超兵機関にパッと現れたかのような、そんな不思議な感覚が今も自分の中に残っている。始まりが無いなんて、そんな事があるわけがないと理解はしていたのだけれど。
それでも、もしかしたら本当に始まりなんて存在していないのではないかと信じかけていた時期もあった。だからヴェーダと一体になったティエリアから与えられた情報は、軽い衝撃と微かな納得と僅かな困惑と多大な違和感をアレルヤに与えたのである。
まぁ、だからといって『故郷』という場所に対する期待が無いわけでもない。
故郷に向かうための旅の準備をしながら、そこは一体どんなところだろうと考える。
考えて、ふっと、片割れの事が気になった。
「……ハレルヤの故郷って、機関になるのかな」
『は?』
「だってほら、故郷っていうのは生まれた場所なわけだから」
だとしたら大変だ。片割れの故郷は既に失われていて、そこへ行くと言う事が二度と出来ない。もっとも、残っていたとしても自分もハレルヤも行こうとは思わないだろうし、とどめを刺すべく愛機を駆って破壊に行くのだろうけど。
あの場所はそういう場所。
だからそんな場所が『故郷』であるかもしれない片割れに同情心を抱いていると、心の中から馬鹿にしたような笑い声が聞こえてきた。
『あんな場所、誰が故郷だって認めるかよ。俺の故郷は別にあるっての』
「え?どこ?」
『お前』
首を傾げると、ハレルヤは酷く端的に、けれどもハッキリとそう言った。
そんな事も分からないのかと呆れる様な響きを込めて。
若干、照れも含まれているかのような口調で。
『俺の始まりなんて、分かりやす過ぎて考えるまでもねぇだろーがよ』
その言葉はつまり、自分なら片割れの始まりになっても良いのだと言う事で。
つまり、つまり。
自分は片割れにとって変えの聞かない一つの物であると言う事で。
思わず息を詰めると、慌てた様な声が『中』から聞こえてきた。
『おい!おまっ……お前!何泣いてやがんだ!?』
「え?僕泣いてる?」
『泣いてる!気付け!』
「うわ……本当だ」
目元に手をやるとそこは確かに湿っているようで、アレルヤはちょっとばかり驚く事になった。ハレルヤに言われるまで本当に、気付いていなかったのである。
気付かないうちに涙が出てくることもあるんだなぁ、なんて、妙にのんびりと考えながら服の袖でごしごしと目元をぬぐう。
『おいこらアレルヤ!そんな乱暴に目元拭ってんじゃねぇよ!赤くなんぞ!』
「そのくらいは大丈夫だよ、ハレルヤ。『フランダースの犬』を呼んで泣いたって言ったらきっとみんな納得してくれるだろうしね」
『そういやお前、そーゆー前科持ってたか…………って違ぇ!俺が言いたいのはそういう話じゃねぇよ!』
「あの時は『マッチ売りの少女』だったよね」
『だから違うっつってんだろ!』
「分かってるよ」
涙を拭き終わって、くすくすと笑うと諦めた様な嘆息が聞こえた。
『泣いて笑って……今のお前、本気でわけわからねぇ』
「そんな事言うなんて酷いな」
『思ってもない事言ってんじゃねぇよ』
「不愉快?」
『そういうわけじゃねぇけどな』
何か、お前に良い様にされてると調子が狂う。
不貞腐れたようにそう呟いた片割れに、思わずアレルヤは小さく吹き出した。
アレさんがハレルヤを手のひらで転がしてる……怒っても無いのに。
けど、こういうことだってあるとは思うんですよね。
……しかし、ティエリアの故郷ってどこなのかな。
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