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来神時代の臨也と静雄です。…こいうとき、カテゴリーをどうしようか悩みます。臨静か来神時代か。
092:理由
それは放課後の屋上での話でもなければ、早朝の昇降口での話でもなく、授業中の隣り同士での話でもなく、休日の街のどこかでの話でもない、単なる休み時間の単なる教室での話だった。
「お前、何でそんなに人間が好きなんだよ」
何の前振りもなく、それどころか滲み出る嫌悪感も前置きの暴力も無く、平和島静雄と言う名の獣は臨也に話しかけてきた。
驚く、なんてものじゃあ、ない。
この学校に通う誰もが知っている様に、自分と彼は知人ではあるが友人でもなければ親友でも、明日には忘れてしまう様などうでも良い他人でもない。顔を見合わせれば互いに嫌悪をぶつけ、行き過ぎれば命がけの喧嘩を行う間柄なのだ。
仇敵と、最早読んでも遜色ない間柄。
それが、自分たちの関係だったはずなのだけど。
一体どうして、だというのに彼がこんなに普通に話しかけてくるのかが分からない。入学してから半年以上たったけれども、こんな事は一回だって無かった。
驚愕から困惑へ、内を満たす感情が変化した頃。
臨也は時間がかかりそうなそれらの感情を処理を放棄して、とりあえずは静雄の言葉に応える事にした。丁度、暇だった所なのだし、それを潰すいい機会が出来たと思えば良い。
そうと決まれば話は早い。いつもの様に笑みを作って、誰も座っていない席を指さす。もちろん自分の物でもなく、彼の物でもない。クラスメイトの誰かの物だ。
「とりあえず、座ったら?」
「立ったままで良い」
「そんな事言わないでよ。俺は座っててシズちゃんは立ったままなんて、喋りにくいったらありゃしない、だろ?それに、見下ろされるのって嫌だし」
「……分かった」
不服そうだったが、それでも彼は納得した様子で頷いた。見下ろされる側の気持ちなんて背が高い彼には分かるわけがないと思うけれども、そこは想像して分かったつもりになったのかもしれない。
自分が言った言葉に従って大人しく席に着く彼を眺めながら、で?と尋ねる。
「俺に何を訊きたいんだっけ?」
「何でお前が人間好きなのか。さっき言ったのに忘れたのかよ……手前自慢の脳みそも、実は大したことねぇんだな」
「安心して。少なくともシズちゃんよりは高性能だから。あと俺の場合、人間が好き、じゃなくて、人間を愛してる、の方が正確だね」
「……変わらねぇだろ?」
「likeとloveの差、ってやつだよ」
見る人が見れば小さな差だけれど、見る人が見れば大きな差だ。
もっとも……化け物なんかには、その差も分からないのかもしれないが。
「ま、この辺りは人によってとらえ方が違うし置いておこうか」
軽く肩を竦め、話を続ける。
「それよりも、俺の人間に対する愛の動機、だっけ?……改めて訊かれると難しいかもね。うーん……見ていて面白いから、っていうのは理由の一つだとは思うけれど、全部ではないだろうしな……あぁ、そうだ。シズちゃん、一つ訊かせて」
「……あ?何だ?」
突然問いかけられるとは思っていなかったのだろう。静雄は、虚をつかれたような表情を浮かべた。
「君は何で弟君が好きなの?弟だから?」
「……それもあるかもしれねぇけど……幽が幽だから好きなんだと思う」
「俺の愛の理由だって、つまりはそう言う事なんじゃないの?俺は、人間が人間として生きてるから好きなんだよ」
「だから手前は俺が嫌いなんだな」
「多分ね」
人間が人間として生きているから好き。
裏を返せば、人間の範疇を超えた人間なんてものは嫌い、ということ。
例えば、目の前にいる彼の様に。
もしかして人間を愛する理由では無くて、自分が彼をここまで嫌う理由を訊きたかったのかもしれないと、ここにきてふと思った。だからと言って、何かが変わるわけでもないのだけれど。
「あぁ、とは言っても俺も人間だからね、同族嫌悪とか、そういうものは普通にあるよ」
「手前と同じ様な奴か……考えるだけで気持ち悪ぃ」
「あはははははは……酷いなぁ、それ」
「自業自得だろうが」
呆れを静雄が表情にした時、チャイムが鳴った。
授業が始まる。臨也は、彼に席を立つように促した。
「そろそろ戻りなよ。授業始まるよ。受けれる時に受けといた方が良いでしょ」
「面倒事がなけりゃ、毎回受けてるってんだよ……」
少し憂鬱そうに彼はそう言って、素直に席を立った。
ふらりと自分の席に向かう彼の背を何気なしに見ていたけれど、しばらくすると教師が部屋に入ってきたので、ポーズとして教科書とノートを出してそちらの方を向いた。
こうしていつもと違う会話は、普通の風景に紛れ込んでいくのでした。
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