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拍手再録です。



013:心音
 
 
 
「時に竹中半兵衛よ、吊り橋効果……と言う物を知っておるか?」
「……?知ってるよ?危機に陥った時の心臓の動きを、相手を意識しての動きだと勘違いしてしまうっていう例のあれだろ?」
 それがどうかしたのかと、半兵衛は生徒会長の方を探る様に見た。
 あまりに唐突なその言葉は、特に何も考えられずに口に出されたようにも見える。現に、今も元就は明らかに会話に集中していない。視線は真っ直ぐ、机の上に向いている。けれども、だからといってこれが世間話である言い切ってしまう事は出来なかった。何せ相手は毛利元就である。何の意図もなく無駄な話を自分にしてくるわけもない。
 ならば何かがあるという結論に至るのは必然でしか無く。
 頬杖を吐いて、静かに相手を見やった。
「……それがどうかしたのかな?」
「いや、これを利用して何らかの罠を張れぬかと思うてな」
 そうして返ってきた言葉に、きょとんと瞬きする。
「罠?」
「……竹中半兵衛よ、そなたはロリコンと呼ばれ蔑まれ嘲られる馬鹿鬼を見て見たいとは思わぬか?」
 すると楽しげな笑みを浮かべた彼の、その言葉で。
 半兵衛は、元就が何を考えているかを正確に理解した。
 つまり、意図的に危機的状況を作り出して、陥れたい人間を誰か異性と一緒にその状況に突き落としみようという企みなのだ。もしも上手く『吊り橋効果』とやらが働けば陥れることには成功するわけだし、もしも失敗しそうになったら危機のレベルを上げて存在を完全抹消してしまえば良いだけだ……と、彼はそこまで考えているに違いない。
 成程、そう考えてみると、その『罠』はそこそこ有効な手立てであるような気がする。成功しなくても、相手にこんな事……例えば、他者を巻き込むこと……を、こちらは実行できるのだという圧力にすることも可能だろう。
 ふむ、と顎に手を当て考え込み、それから、半兵衛は口を開いた。
「……慶次君には魔王の妹君でもあててみようか」
「それは良い案よな。……では?」
「あぁ、君の思っている通りだ」
 笑顔を浮かべて、答える。
「楽しそうだし慶次君を叩きのめせるなら、喜んで手伝わせてもらうよ」
 
(2010/10/12)
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