[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
36
黒い炎が見える。
焼き焦げる臭いがする。
暑さを肌が感じている。
爆ぜる音が聞こえる。
血の味が口に広がる。
そんな中、呆然とソレを見ていた。見ているしかなかった。
黒い炎に囲まれ纏い、泣き叫んでいる黒衣の少年の姿を。
両手で顔を覆って、何も見たくないと。
両手で耳を塞いで、何も聞きたくないと。
泣いている少年の姿を。
手を伸ばしてやらないとと思う。
なのに、指先はピクリとも動かない。
声をかけてやらないとと思う。
なのに、口からは空気の漏れる音だけ。
……何と無力な存在だろうか。
彼が嘆き、憂い、苦しみ、悲しみ、泣いているというのに。
なのに、何一つ出来ない。
何故、この手は動かない。
何故、この口は紡がない。
何故、この身は動かない。
守らなければいけないのに。
悲しませてはいけないのに。
闇を見せてはいけないのに。
口惜しさを感じる中、少年が何かを睨んだのを見る。
かろうじて動く頭で、彼の見るものを瞳に映す。
それは、大人の人間だった。
男は恐怖に顔をゆがめ、ただ畏怖の目で少年を見ていた。
声は……でないのだろう。とっくに、炎で喉は焼かれているに違いない。
少年はきっと、命乞いさえ聞きたくないだろうから。
涙を溜めた瞳でキッと見据え、彼は再び叫んだ。
「これ以上、僕の……僕の居場所を奪わないでっ!」
それが、何年も前の話。
ずっと……忘れたくても忘れることができない、忘れることができたとしても忘れはしない、そんな大切な過去の話。
失うことを、始めて知った日の話。