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どんどん足しますとも。
~ティエとヴェダ~
「どうして貴方がここにいるんですか?」
「え?たまには生徒と同じ空気を吸ってみたいって言うか?」
ここは、三年C組の教室。
ため息を吐いているティエリアの隣にいるのは、学園所有者・ヴェーダだった。
いつもは黒っぽいスーツを着ている彼女は、どうしてだろうか……(楽しいからに決まっているが)制服を着ていた。ブレザーと、何故かズボンを。ここはスカートだろうに。性別から考えれば。
一応、若く見える彼女だから、そんなに違和感なく馴染んでいるものの……。
「ヴェーダ……お願いですから部屋に戻ってください」
「嫌。だって、あそこってつまらないんだもの」
「……それがオーナーの言うことですか…」
ため息を吐く。
何というか……そう、教師が憐れ。本人にはそんな気がなかったとしても、彼らからすれば授業を見られていると言うことに他ならないのだから。それはもう、心拍数が上がってしまうに違いない。下手なことをしたらクビに……と、内心ビクビクだろうから。そっちの意味の、心臓の急変である。
別に、彼女はそんなことをしないだろうと、ティエリアは知っているけれど。
「でも……どうしてもっていうなら、戻ってあげようかしら」
「一体、どういう風の吹き回しです?」
「大したことじゃ無いわ」
驚いてヴェーダを見ると、彼女はクスリと(あるいはニヤリと)笑った。
……こういうときは、迷惑ことを考えているものだ。
そして、その予感は的中する。
「戻ったら部屋にアレルヤ呼ぶの。ティエリアはここで授業受けてると良いわ」
「……分かりました。ここにいてください」
「いいの?」
嬉しそうに笑う彼女に気づかれないよう、再びため息。
今は、一時間目の授業である。だというのに、こんな時間から彼を呼んだとしたら……絶対に、午前中の授業にアレルヤは参加できなくなる。ヴェーダが引き留めるから。
それはさすがに、可哀想だというものだろう。
彼女に気に入られてしまったアレルヤに、ちょっとばかり同情した。
(2008/06/08)
~学園所有者ヴェーダの愚痴~
ねぇ、ちょっと聞いてくれる?
酷いのよ、ティエリアったら。折角私が用意した服を着れ無いだなんて言い出すの。ゲームで負けたんだから、大人しく身につければいいのに。ていうか、嫌だったら負けなければいいのよ。そんな無茶なって?何を言っているの、人間、やろうと思えば運勢なんて簡単に支配できるわよ。
でね。話を戻すけど、本当にあの子ったら抵抗ばっかりして。困ったわよ流石に。人質取ったら何とか言うこと聞いてくれたけれど。いつの間にあんなに聞き分けのない子になったのかしら……あ、もしかして反抗期?そうか……なら、許してあげたほうがいいわよね。あまり責めたら成長の妨げ?かもしれないし。
人質はね、人質って言っていいのか分からないけれど……彼の自由時間をね。そのくらい、生徒会長としての仕事を押し付けたらあっと言う間に奪えるもの。簡単なものよね。
ティエリアも分かってたらしくて、話したら断念してくれたわ。始めからそうしてくれたら良かったのに。無駄な時間を浪費せずに済んだと思うんだけど……ま、男の子だものね、抵抗するのも無理はないかも知れないわ。でも着せたかったんだし、そこは諦めてもらいましょう。
ついでに刹那にも着せたかったんだけど……逃げられて。アレルヤも探してみたら、いつの間にか外出届が出てたわ。ハレルヤのと一緒に。きっとハレルヤの方が私の行動を察知して、手を引いて逃げたのね。アレルヤはきっと、何が何だか分かっていなかったと思うわ……あぁ、その時の様子が見てみたいっていうか。
でも残念ね。人数分、いろんな種類を用意していたのに……ほら、執事服とかいいと思わない?誰かが甲冑とかおいていったから、それを刹那に着せてみたかったな……・ほら、剣士って感じだし。
というか……あれは誰がおいていったのかしら…ほら、あそこの部屋の隅の着ぐるみ。ペンギンって……どういうチョイス?ま、捨てるのも勿体ないし、あそこら辺に放っておこうかしら。引き取り手がいたらいいんだけど。
あ、ティエリアが着替えてきたみたい。ちょっと写真撮影に行ってくるわ。
……え?何を着せたかって?そんなの決まっているじゃない?
メイド服よ、メイド服。似合うと思うでしょ?
(2008/07/13)
~夏休みの予定~
途美学園の、学園所有者であるヴェーダの専用室で……ティエリアは、溜息を吐きたくなった。理由は彼女の机の上を見れば簡単に分かるだろう。
山積みになっている大量の紙は、仕事のための書類ではない。そういった彼女のサインや印鑑が必要な物は全て、備え付けのソファーに移されていた。今にも崩れそうな程のそれを見て、頭が痛くなるのは……決して、自分の心が狭いとかいう事ではない。それ以前の問題だった。
では机の上の紙は何かというと、それは俗に『パンフレット』と呼ばれる物。
「うーん……ねぇ、ティエリア、貴方はどこに行きたい?」
「日に焼けるので、どこにも行きたくありません。それよりも仕事をしてください」
「後でするから、後で」
嘘だと思った。こう言ってから彼女が本当に実行した例は希。学園理事長であるスメラギに代行させるか、あるいは誰かが学園創設者であるイオリアを連れてくるか、しまければ、この書類は処理されない。
全く……どうして生徒会長の自分が、ここまで学園所有者の彼女の面倒を見なければいけないのだろうか……悲しくて何も言えない。
「とにかくっ……夏にどこに行くか、というのは自分の問題だけで済ましてください。くれぐれも俺たちを巻き込まないでいただきたいのですが」
「えー、無理」
即答。
予想はしていたが、まさかここまでハッキリあっさりと言うとは……畏怖すら覚える。
そんなティエリアの心情を知ってか知らずか、ヴェーダはボールペンを器用に回しながら言う。
「だってさぁ、一人で行ってもつまらないし。いっぱい連れがいたら楽しいし?さらに言うと私の楽しみが増えるって言うか、イベントを考えるかいが出てくるって言うか?」
「つまり、貴方の個人的な事情ですか」
「まぁ、そうとも言うわね」
「そうとしか言いません」
一体……何度目になるだろう、再び溜息を吐いて……諦めた。
避けられないのだろう。学園所有者の職権乱用による、夏休みのイベントという物は。
来るであろうその時を思い、ますます憂鬱になるティエリアだった。
(2008/08/03)
~暑い日は~
「ったく……何で海もプールも近くにねぇんだよ……」
「まぁ、ここって都市の中心部だし」
プールはともかくとして、海というのは無茶ではないだろうか。
苦笑しながら、サラサラとシャーペンをノートの上に滑らせていく。夏の宿題。レベルの高い学校だから、宿題の量も半端でない。難しさも結構なもので、きちんと全て解けるかが今から少々心配ではある。もしもの時はティエリアに訊きに行くつもりだが……どうだろう……教えてくれるだろうか。そこから問題だ。
考えている内に一つ、宿題が終了した。
「一つ終了……」
「お前、良くやるよな……」
「そう言うハレルヤだって、計画たててやってるじゃないか」
「当然だろ」
……中学校まで宿題をろくに出さなかったくせに。
心の中でそう思ったが、口にしようとは思わなかった。言ったら仕返しのような物が来そうだったので、それを少し遠慮したかったのだ。それに何より、彼が宿題を出そうという理由が分かっていたから。学園所有者と生徒会会長の顔が浮かぶ。理由としては…怖いのと負けたくないのの五分五分、というところだろうか……。
言わない代わりに冷蔵庫を指さす。
「アイス、買ってあるけど」
「マジで?」
「本当だよ。そろそろ暑くなると思ったから、いるかなと……って聞いてないね」
既に冷蔵庫の扉を開いているハレルヤを見て、苦笑が漏れる。
「僕のも一つ取って」
「了解。何味取ればいいんだよ。色々あんぞ?」
「何でも良いよ。適当で」
「んじゃイチゴで」
「ありがと」
答えながら思う。
クーラーをつけたいのに……リモコンを、寮に住む猫たちはどこに隠したのだろうか…。
(2008/09/07)
~職員室の天使様と~
途美学園の職員室には天使が住んでいる。
名前はアニュー・リターナー。生徒たちとの攻防戦で疲れた教師を励ましてくれる、とても有りがたい存在だった。希有、と言っても良い。
ともかく、職員室には天使が住んでいるのだった。
そして。
「アニュー、今日もお疲れ」
「ちょっと疲れました……今日は思ったよりも多かったですね…」
授業が終わった放課後には、たまにライルと話している姿が見られるのであった。
二人は中々に親しかった。あまり見分けが付きづらいライルたち双子を一発見分けたという観察眼があり、そこから親しくなっていたらしい。あそこまで似ていたら誰も分からないだろうから、確かにそれによって興味も出るだろう。
そうして親しくなっていった2人は、こうやって放課後の時間を共にする。
「何人来たんだ?」
「七人。その内二人ほどが止めて行きました」
「…そりゃあ大変だったな」
「えぇ」
笑い合う二人。これが穏やかな物ならば絵にでもなっただろうが、残念なことに二人の笑顔は少し苦そうだった。
当然である。二人減れば減らない人々に二人分の仕事が回されてしまうのである。
「……今回は確実にあの二人がいけないでしょうけど」
「そうなのか?」
「えぇ。片方は、生徒に向かって『こんな問いも出来ないのか?』だそうです」
「出来てりゃ学校に来る必要ないっての」
「そういうことで、ティエリアがキレたそうで」
そうして結果、プライドをボロボロにされた男は去っていったのだった。
…このような背景が有れば同情もする気は起きない。ライルははぁ、とため息を吐いた。悪い教師が減るのは良いのだが、それで仕事が増えるのはいただけないという反応だ。
「そうやって、途美学園の秩序っぽい物は保たれてくんだよなぁ…」
「やることやれば大丈夫ですしね…」
ということで。
途美学園は今日も平和です。
(2009/04/15)