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増えて欲しいかな…
~ゼータの一族は基本みかん好きです~
ピタリ、と隣を歩いていたゼータの足が止まった。
何かと思って彼の視線の先を見てみれば……ミカン缶の山が。
「オイ……まさか……?」
「……ボクは、買う気はない」
その答えを聞いて、ホッとすると同時に訝しく思う。
今、マークⅡとゼータの両腕には、たくさんの荷物が抱えられている。メタスからのお使いの品だ。そういわけで、これ以上荷物が増えてしまったら困る。非常に困る。何せ、持つ場所がないのだから。
だが、そんなことで納得する彼なハズがない。ゼータはとにかくミカンが好きだ。弟と従兄弟と一緒に、あっという間に一箱分は開けてしまえるくらいに。それから、体がミカン色になるのでは、と心配されるくらいに。
だから、彼の返答は実に不思議な物だった。
「……プラスとダブルゼータに連絡して、こっちに来て買ってもらえばいい」
が、これで何か、疑問が全部氷解した気がする。
あれか、自分じゃもう持てないから弟と従兄弟を呼びつける気か。あの二人も無類のミカン好きだから、反論無しで来ると思う。
だけど、彼は何かを忘れてはいないだろうか?
「ゼータ……この状態で、どうやって電話すんだ?」
先の通り、両手はふさがっている。
こんな状態で、一体どうやって連絡を付けるのか……無理だと思うのは、マークⅡだけだろうか?
「……あぁ、そういえばそうだな」
「やっぱ、気づいてなかったんだな」
らしいと言えば、らしい発言だ。
「なら、ウェイブライダーになって飛んで帰ろう?」
「何で疑問!?……てーか、オレは嫌だからな!?お前の上乗って帰るの嫌だからな!?卵とか落とすから絶対!そんなことしたら、メタスちゃんに怒られるから!」
「メタスが……そうか…なら、仕方がないか……」
ようやく、諦めてくれたようだった。
そして……マークⅡは今度から、こう言うときはメタスの名前を出したらいいのだと、何となく悟った。彼が諦めたのは多分、彼女の名前の力が大きかったからだ。
(2008/06/08)
~そういえばなんですが~
「…ボク達には『誕生日』は無いのか?」
「は?」
いきなり何を言い出すのだろう。
驚いてゼータを見ると、彼は真剣……とまではいかないが、それでも少しは興味があるような表情を浮かべて、首をかしげていた。
……たまに(わりと毎日な気がしなくもないが、それは禁句)…兄が分からなくなる。何でこんなことを言い出すのか。兄弟だし付き合いは長いが、行動の先が読めないというか何というか。
呆れるプラスの目の先で、ゼータはどうやら考え込んでいるようだった。
「製造月日……か?だが、それも良くは分からないし…」
「てかその問い、突然すぎねぇか?」
「……そうか?何となく思っただけなんだが……」
「何となくねぇ…」
おそらく彼のことだから、本当に『何となく』なのだろう。何の脈絡もなく、ふと思いついただけの疑問。
ゼータらしい、と思いながら考えてみる。誕生日……確かに、言われてみれば分からない。分からないからどう、というわけでも無いだろうが。それでも、一度気になってしまえば回答が出ないのはスッキリしない。
一体いつなのだろうか……。
「………………ダメだな。分からない」
「だよなァ…あ、何か悔しいぜ」
「悔しいか…?ボクは残念なだけだが…」
「あー、お前はそうだろ。ってか、いい加減『……』の乱用を止めろって」
「……どうしてだ?」
「鬱陶しいっていうか、長々しいっつーか」
つまりは、少し気になるわけだ。
直るとは思っていないが、言わなければ始まらない。
(2008/09/07)
~だれか彼を止めてください~
秋も深まり、冬の足音が近付く今日この頃。
寒空を見上げ、真っ青な空を見る。
良い天気、である。
「こういう日は世界征服日和だと思うんですが…」
「思うのは貴様だけだ」
突然に背後に現れた殺気を纏う存在感と、首筋に当てられている熱源に冷や汗をかきながら、ジ・Oは余裕…な振りをした。そうでもしないと折れそうだった。心とかプライドとか、とにかく大切と称される物が。
幸い、顔は見えないはずだ。
「ゼータ、貴方はどうしてこんなに私を邪魔したがるんですか?」
「嫌いだから」
返ってきた答えは、単純かつシンプルだった。
「だから今、ここで死ね」
「ちょ、ゼータさん、もう少し考えて行動しませんか!?」
「断る。とにかくお前を殺す」
「……つかぬことをお聞きしますが」
ふと、気になったことがあったので訊いておくことにする。
「ドライアイスは在中ですか?」
「そうだが…それが何かあるのか?」
「いえ…」
ドライアイスが頭の中にあって、それでなおこの態度というのは……些かでなく酷い。無くなったらと思うと、生死と言うより来世のことを心配しなければならないような。
「それより…覚悟は良いな?」
「ゼータ、ビームサーベルを近づけ…熱っ!?」
「サーベルが嫌ならマシンガンでいくぞ」
「そっちの方が酷ッ!?でなくて、武器をおさめなさい!」
「嫌だな」
「すみませんすみませんすみません今日は絶対に行動を起こしませんので許し…」
「あぁ、お前の行動は関係ない。気分だ」
「気分!?」
そして…
(2008/12/07)
~布団攻防戦~
「ゼータ起きて!ゼータってば!」
「……すぅ」
「もうっ!」
一向に目を覚ます気配がない上に、布団をギュッと握りしめているゼータを前にして、メタスは一人奮闘していた。結果が出ていないのが非常に残念であるが。
「ゼータ、今何時だと思ってるの!?十一時は回ったんだからもう起きなさいっ!」
「……あと…一時間……」
「ちょっと!そんなに寝たら朝ご飯と昼ご飯が一緒になっちゃうでしょ!」
「……別に良い…」
「ダメだって!」
ちょっとした会話が成立するようになったのである程度は目覚めているらしいが、まだまだ完全に目覚めているワケではないゼータの様子に、メタスはそれでもめげずに布団を剥ごうと引っ張り続ける。この布団から出しさえすれば、どうにか彼だって起きてくる得るはずである。だって今は冬。布団がなければ寒くて寒くて仕方がないはずだ。
「向こうにこたつあるから!寒いならそっちに移ろうよゼータってば!」
「……移動中が寒いから…嫌だ」
だだっ子のような反応。
このままでは埒があかないと判断したメタスは、仕方なく『最終手段』を使用することにした。
即ち。
「ゼータ、向こうにはミカンが用意してあるのよ?」
「行く」
ガバリと起き上がって布団から出る彼を呆れながら見る。こう言えば言うことを聞いてくれるとは思ったが、まさかここまでとは。いや、知っていたけれど。何せ幼い頃からずっと傍に居るんだし。
それでも、さっきまでと打って変わってテキパキと布団をたたむ彼の様を眺めると……何とも言えない気持ちになるのだった。
まぁ、これもいつものことと言えば、いつものことだが。
(2009/03/14)
~眠り木~
私は木。公園に、一本だけ立っているような、木。
そして今。
私のところには一人の来客。
といっても、その来客は私にもたれかかって、背中を預けて眠ってしまっている。私は、私の傍にいる人を眠らせるのが得意なのだけれど、そういうのとは全く関係なく眠っている来客だった。
そういう人……いや、この来客は人といって良いのだろうか…?…良いことにしよう……ともかく、そういう人はとても気持ちよさそうに眠る。見ている私が穏やかな気持ちになるくらいぐっすりと。
ただ、問題もあって、そういう人は起こさない限り延々と眠り続ける。
私は構わない。眠っている人も気にしないだろう。
けれど、眠っている人が帰るのを待つ人は、そうじゃないだろう。
だから、夕暮れ時の今。
私は、さやさやと枝を揺らし、木の葉を落としながら来客を起こす。
そろそろお帰りなさい、と。
そうして数秒後、その人は目を開けた。
「……よく寝た…あと十二時間くらいは眠れそうだな……」
まだ眠るつもりなのか。
私は呆れた。この人、一日中眠っていたのだけれど…。
けれど、そんな私の思いに気付くわけもなく、その人はあくびをして、立ち上がった。
「……そろそろ帰ろう……帰るのが遅れて夕食の時間が遅くなったら大変だ。……みんなに文句を言われるのは嫌だし…」
呟きながら、その人は公園から出ようと歩を進めていく。
「…あぁ、そうだ。明日は枕も持ってこようか…」
そんな言葉を残して、ついには見えなくなった背に、私は静かに微笑みを浮かべた。端から見たって分かりっこないけれど、確かに私は微笑んだ。
そして、私は誰も聞き取れない声で言葉を紡ぐ。
さようなら。
また明日。
手を振る代わりに枝を振って私は彼を見送った。
(2010/05/06)