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「……はぁ」
「どうかしましたか?」
「都の人たち。やっぱり、目的は……だよね」
「でしょうね」
明確に何が目的かは言わなかったけれど、ソーマはちゃんと分かってくれたようだ。
それに対して、ほんの少しの嬉しさを覚える。屋敷の住人だけでなく、彼女もとても付き合いやすい性格だ。とても感謝している。
屋敷の壁の中に結晶を二つ入れながら、ため息を再び。
全く、どうしてこの屋敷は力を受け付けにくいのだろう。いや、理由は知っているけれど。でも、やはり思ってしまう。これが無かったら、結晶は一つで十分すぎるほどなのに。だけれど様々な力の効力が薄くなってしまうせいで、二つほど入れなければいけない。
不便な話である。結晶も、無限にあるわけではないのだから。
理由を……地下の鏡を取り除くわけにもいかないし。実行してしまったら、まず間違いなくティエリアから怒りの声が上がる。それはかなり恐ろしいので無理。それに何より、あの鏡に近付きたくない。
「後は客室の方だね」
「にしても、随分と埋め込みますね。ここまでする理由が?」
「まぁ…ここが落ちたら負けだから。僕が居場所を大切にするのは知っているよね?」
「あぁ、なるほど……ここが消えれば、戦う理由が無くなるという?」
「ある意味、だけどね。みんながいたら多分、大丈夫」
そんなことを話していたら不意に、すぐ横にあった扉が開いた。
現れたのは……トリニティ三兄弟の長男、ヨハンだった。
突然の邂逅に思わず呆然と見つめ合って、固まる。
不自然な膠着状態。
そんな中、最初に動いたのはソーマだった。
我に返った彼女は速かった。裂け目を手元に作り出して、そこから別の場所に保管してあったのだろう金槌を取り出して……投げつけた。ヨハンの顔面めがけて。
普段ならば軽く避けられただろうそれも、いきなりならば避けるのも難しい。金槌はクリティカルヒット…と呼んでも過言ではないくらい綺麗に彼の顔に収まった。
倒れ行く彼を見ているしか無く、倒れる音がしてようやく、自分は我に返った。
返って、物凄くこれは大変な状況だと気がついた。
「ソソソソソソーマちゃん、どどどうしよう……っ…声、絶対聞かれてる…っ!」
「落ち着いてくださいっ。ほら、深呼吸ですっ。吸って吐いてー、吸って吐いてーです!」
……彼女も慌てているらしく、『吸って吐いてー』などという、いつもならば言わないようなことを口にした。
それを聞いて、ようやく落ち着く。他人がパニックに陥っているのを目にすると、気を静めることが出来るというのは本当らしい。覚えておこう。
「……でも、本当にどうしよう…いつもみたいに声を変えてないよ…今」
「ドア越しですから、そんなに深刻な状況ではないのでは?それに、私が金槌を投げつけましたし。前後ぐらいの記憶は飛んでいるかと」
「………かなぁ」
ならば、良いのだが。
不安に思いながら、床に伸びているヨハンを見る。
…ごめんなさい。
でも、まだダメなんです。