[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
58
「…………………何だコレは」
「何って、見て分かりませんか?」
「分かったから訊いてんじゃねぇか…」
アリーの視線の先には、従者の少年に吊されている依頼主の姿があった。しかも『吊す』というのが言葉のアヤでも何でもなく、本当に木にくくり付けられたロープに足首を繋がれ、頭を下にして宙に浮いていて。
これはどういう主従関係だと、思わず考えてしまったのは仕方がないだろう。
例えば、自分の部下は隊長であるアリーに忠実だ。命令ならば多少は危険なことでも、キチンとこなす。そうでなければチームとしても成り立たない。
そういうわけだから当然、命令を聞かせることができるようにと、普段から威厳ある態度を取ることも必要になる。まぁ、そんなことをしなくても、言うことを聞かせるくらいはお手の物だが。だが、そうしていたほうが何かとやりやすいのだ。
だからこそ、下の立場のハズの少年が、上の立場であるハズの依頼主を吊し上げるという行為に、思わずツッコミを入れてしまったわけだ。
絶対にコレは、一般的に見ても変だろう。
が、何を言っても無駄だろう事は彼の受け答えから理解できたので、黙って成り行きを見ておくことにする。現実を受け入れてしまえば、存外コレを眺めるのは楽しい。
「泥様?僕は都に残ってくださいと言いましたね?」
「しかし『異端』を狩る現場を見たいと思うのは、人間としてとうぜ…」
「だから何です?」
ニコリと微笑みながら、主の言葉を遮る彼の名はリボンズ、というらしい。それから『泥様』と呼ばれているのはアレハンドロという貴族。
……本当に、これだけ見ていたら、どちらが主か分かったものではない。
「危険な上に足手まといなんです。貴方分の食費も勿体ないし、食事を配る係の僕の労力だって無駄なんですよ、一人分。あぁ、酸素ももったいないですね。息を止めてください」
「リボンズ……それは私に死ねと言っているのか?」
「まさか。そんなわけないじゃないですか。僕は泥様が大好きですよ?」
「なら『泥様』は止めてくれ……」
「歪んだ愛情表現ですから。あきらめてください」
いい加減、アレハンドロが憐れに思えてきた。
が、何もする気はない。こんなおもしろいショー、ここで見逃してしまえば当分……いや、一生見ることは出来ないだろうから。
それだけ有り得ない光景なわけだ。
もう少し続きそうな二人のやり取りを眺めながら、あることを思い出してため息を吐く。
折角、使える能力を持っていた『異端』を捕らえていたというのに……部下の不手際で逃がしてしまった。ここからは歩いていかなければいけない。面倒な話だ。時間の短縮もかなわなくなった。
再度ため息を吐いて、標的のいる町の方に視線を投じる。
早く会えないものだろうか……。
今から、その邂逅が待ち遠しい。
ちなみに。
失敗をした部下は今頃、森の動物の餌にでもなっていることだろう。