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こじつけ以外の何者でもない……
06.おはじき
落ちていた、最後の透明な黄色を拾って、差し出す。
そうすれば彼女は微笑んで、目でありがとう、と答えてくれた。
今、彼女の目の前にあるのは、山になった透明の円状の、小さな玩具。
多分、彼女の記憶の欠片。
偶然にも、それはおはじきの形になったらしい。
こういうのは、本人の嗜好だとか……そういうものに、影響されるのだけど。
どうやら、彼女は違うようだ。
見て、そう思った。
例えば、とても大切な思い出が詰まっていたら、もっと反応をするもの。
けれども彼女はそんなことはなくて。
でも、それが大切なものだとは知っているらしくて。
だから、丁寧にすくい上げて、ギュッと抱くに止める。
あのおはじきの中には、どんな記憶が入っているのだろう?
色合いからして、きっと、素敵なものだと思う。
夢は、本人の気持ちに忠実だ。嘘なんて、どこでもつけない。
だから、色だけでも、見ることができれば推測は出来るのだ。
「……ねぇ、貴方のは、どんな形?」
ふいに、彼女が口を開いた。
何のこと?と首をかしげて、それから気づく。
それは……自分の、記憶の欠片のこと?
訊くと、彼女はこくんと頷いた。
……そうだね、僕のはよく……分からないかな。
「分からない?」
うん。だって、見たことがないから。
「そうなの……?」
驚かれてしまったけれど、それは普通のこと。
彼女のように、目に見えるものとして現れるのは、実は珍しい。
別に、彼女が変だというわけではなくて。
そう……それは、希有な才能と、いえる。
まだ幼く見える彼女にはその才能がある。
なんて素晴らしいことだろう。
ハッキリと形に出来るほど、記憶という物が、彼女の中では大きいということだから。
忘れたくないことがあるのか。
覚えていたいことがあるのか。
いずれにしろ、彼女が過去を大切に思っていることは事実。
何故?と尋ねると、彼女は少し考えてから、ポツリと呟いた。
「思い出の中には、お父さんと、お母さんがいるから……」
だから、忘れたくない。
「二人に、たくさんのことを教えてもらったから……」
だから、覚えていたい。
その答えを聞いて、微笑む。
彼女は、なんて親孝行者なのだろう。
いい子。彼女よりも、今は小さな自分が『子』と言うのは妙かも知れないけど。
でも、彼女は確かに『いい子』だ。
そんな彼女だったから、もう少し一緒にいたかったけれど。
そろそろ、散歩を再開しよう。
「行くの?」
残念そうな彼女だったけれど、そうだよ、と答えれば微笑んでくれた。
それから一つ、出会いの記念だと言って、透明なおはじきをアレルヤに持たせてくれて。
とても嬉しくて、お礼を言って、また、歩き出した。
今回の人はフェルト。
おはじきって、きれいな玩具ですよね。キラキラしてて。
暖かな、楽しい記憶って、物にしたらそういう感じなのかもしれません。