62

62


「ハレルヤ、そちらに彼は行っていませんか？」
「は？テメェ、いきなり何だよ」
「だから、彼です」

　ハレルヤは、ティエリアが所有している家屋のある場所へと来ていた。理由は簡単で、一応『物置』と称されている場所に用があったのだ。
　ドアノブに手を掛けて、そこでソーマが現れて今の状況に至る。

「アイツ？どうしたんだ？」
「いつの間にかいなくなっていました。ずっと傍にいたのに…」

　ティエリアの所にもいなかったので、もしかしたら貴方の所に……と思ったのですが。
　そう言って、ソーマはため息を吐いた。

　そんな彼女の様子に、ハレルヤは若干、嫌な予感を覚える。もちろん、これが外れている可能性の方が大きい。逃亡者の二人のような、状況を速く動かすほどのイレギュラーとは、彼はまだ会っていないはずだ。
　が……彼のことだから、あるいは。

「ソーマ、あの逃げてきたっつー二人のとこには？」
「行きました。そうしたら『来た』という返事があって…そこから手がかりが無……ハレルヤ？どうかしたのですか？」

　不審そうな彼女の様子だったが、そんなのに構っている余裕はない。
　ソーマは今、なんと言った？
　あの逃亡者二人と、彼が会ったと言わなかったか？

　その事実がさすのはつまり……最悪の現状。

　ハレルヤは、あの二人に口止めをした覚えはない。だから訊かれれば、答えてしまうだろう。傭兵のことも、
捕まっていたことも。もしかしたら、彼らは傭兵の隊長の名前だって知っているかも知れない。
　もしも本当に名前を知っていて、それを教えたとしたら……最悪どころではない。


　何が何でも、彼は行く。


　すでに行ってしまったとしたら……もう遅い。この扉を開いても、何もない。空の部屋がそこにあるだけだ。

「…ハレルヤ？」
「んだよ」
「どうしたんです？さっきから黙っていますが」
「何でもねぇよ」

　本当は、何でも無くないのだが。
　それを彼女の言うのはしゃくというか……。
　とりあえず彼女には話さないことにして、扉を開く。
　そこには、


　家具が一つもない、積もった塵もない部屋があった。


「誰も住んでいないのですか？」
「……アイツ…やっぱり一人で突っ走りやがって……」
「……ハレルヤ、どうかして…？」

　ソーマが疑問を口にしたり、こちらを見たりしているが気にしない。というかそれどころではない。
　彼は、間違いなく『迎え撃つ』準備をしている。

「オイ！アレルヤがいる場所まで裂け目を作れ！」
「…いきなり何です？」
「っせぇな。時間がねぇんだよ！」

　だとしたら、次に向かうのはアレルヤがいる場所。