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速かったな……と、五人が去っていった方を見て思う。逃げると決めたらしい後の行動は実に素速く、ロスする時間がなかった。戦っていたコートの青年の方はさておいて、いきなり登場させられたあの四人が、よくもまぁあそこまで素速く行動できたものだ。と、リボンズはむしろ感嘆の意を持っていた。
普通なら、あそこで何が起こっているか分からず混乱すると思ったのだが。
そうならなかったのは、顔の左半分が隠れていたあの青年のせいかもしれない。どうやら彼は慌てず驚かず、状況を把握していたようだった。
というかそもそも、人質にしようと連れてきたのはあの少年だけであり、残りの三人は勝手に付いてきただけだ。なるほど、あの裂け目は何人でも通れるのかと、何となく納得した。一人、あるいは一つだけかと理由もなく考えていたのだが。次使うときは気をつけることにしようか。
などと思っていると、ふいに鋭い敵意が向けられた。
つい、と顔を向けると、そこには憮然とした表情を浮かべている、アリー・アル・サーシェスの姿があった。どうやら、戦いを邪魔されてご立腹らしい。
それは申し訳なく思うが、あれは自分ではどうしようもない事故だったのだから、しょうがない。軽く肩をすくめた。やったことに対しての反省は、これっぽっちもない。人質でも取らなければ勝てなかっただろう事は事実だ。
見たところ、あの青年は別の何かで身体能力を強化しているようだった。どういう能力かを『視る』ことができなかったため、リボンズには使用することはできない、が。
とにかく、そんな『異端』相手に、人間が勝てるはずがないではないか。
もしかしたら、あの青年が今回のターゲットなのかもしれない。が、確定していない以上、そうだと決めてかかるのも危険だ。もしも違った場合、後ろから本当の『魔王』が現れ、あっと言う間に自分たちを殺していくかも知れない。有り得ない話でない分、警戒心も強い。
まぁ、そうでなくても……彼が目標と関係があることは間違いないだろう。でなければ、このタイミングで襲撃には来ない。
さて、どうしたものか……。
自分が今、どんな力が使えたかと思い出しながら、アレハンドロを木から下ろしてやる。そろそろ限界だろう。放っておいたら下手したら死ぬ。
それはまだ困るのだ。
「おい」
「……何です?」
唐突に話しかけてきたアリーに、リボンズは縄を解きながら答える。
……が、きつく締めたせいか、上手く外れない。
仕方がないので、隠し持っていたナイフで縄を切る。
「テメェ、『異端』なのかよ」
「まぁ、人外ではありますね」
どさりと主なはずの男が落ちたが気にしない。どうせ、これくらいでは目をさましはしないだろう。ならば問題はない。
それに何より、いつものことだ。
「もちろん、泥様は知りません。人間以外を嫌う彼が、知っていて僕を傍に置くのというのは……ほとんど有り得ませんね」
「そうかい。ま、敵じゃないんならいいがな」
「話が早くて助かります」
彼にも、アリーくらいの臨機応変さが欲しい。
思いながら、リボンズはまだ気絶しているアレハンドロを見た。