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ガシャンと音を立てて、宙に浮いていた刃物が紅い液体の海に落ちる。
その様子を見ながら、ロックオンは銃を下ろした。
「良いところで登場……ってか?」
「ロックオン!どうして動いてるんですか!?」
俯せに倒れたミハエルの隣を走って通り過ぎ、やって来たアレルヤの一番最初のセリフがこれ……というのは、如何なる物だろうか。何とも言えない気持ちになるが……先ほどまでのティエリアとヨハンに伝えられた状況を作ったのが、彼であるというのがこれで確定したといえる。
ヨハンがミハエルの元へ駆け寄り、ネーナも驚いた風に兄の元へ行く。刹那は何が何だか分からない様子で呆然としており、ハレルヤはいつの間にか消えていた。
木の上から降りてきたソーマがアレルヤの隣に収まって、ティエリアが口を開く。
「俺が撃った。あの白い弾丸、見ただけで何なのか分かったぞ」
「そっか……ってことは、ミハエルを撃てってロックオンに言ったりとか?」
「いんや?それは俺の独断」
ミハエルが操られているという事はあらかじめ聞いていた。操り……それは身の内に自分の物ならざる意思が存在すると言うこと。ならば、その意思を追い出してしまえば良いのではないだろうかと、ロックオンは思ったのだ。有ったのは明確な理論ではなく、長年の勘としか言い様のない直感。そして、それを信じた。
ちらりと、下ろした銃を見る。
弾丸は、残り四発。
「なるほど。じゃあティエリア、ソーマ、ちょっとここを任せて良い?」
「構いません。敵が来たら倒せ、パニックが起こったら沈めろ、問われたら、」
「出来る範囲で答えろと?フン……まぁ、そのくらいはやってやる」
「ありがとう。ではロックオン、貴方は僕と来てください」
「オイオイ……また妙なことして置いてく来じゃないだろうな」
ほんの少し、警戒。何の理由も無く彼がそういうことをするとは思えないが、それは裏を返せば『何か理由があったらやる』ということでもあるのだ。そしてその時、彼は躊躇わずに行動を起こすだろう。
だが、その問いに彼は苦笑をもって返した。
「大丈夫です。今度こそ、その白の弾丸と、貴方の射撃能力にお世話になるかもしれないし……何より、僕が何をしたのか、それの説明も僕から改めてやりたいですから」
「アレルヤ」
「彼は僕の力に触れたんだ。もう話しても良いと思うよ」
咎めるような視線がティエリアから向けられたが、大して答えた様子でもなく彼は微笑む。どうやら重大なことらしいが……。
「というか……話したいと思うんだ。どうしてなんだろうね……」
「……そこまで言うのなら仕方がない。これも『変化』の一つならば、俺たちの目的は多少は達成されたということになるしな」
「目的?」
「こちらの話だ」
「そうなのかい?なら……行ってくるね」
目的、という物が気になるらしいアレルヤは、しかし聞き出すのは止めたらしい。訊いても教えてもらえないと感じたのだろうか……確かに、ティエリアは一度決めればそう簡単には物事を変えたりはしないだろう。
血の海を難なく渡っていく長髪黒衣の彼に多少の違和感を覚えながらも、ロックオンは横に並んで歩く。指名が掛かったこともあるし、何より説明が為されるというのに惹かれた。ティエリアの説明は抽象的……いや、あまりに簡略すぎて分かり難かった。多分、あれは故意にやっている。
皆の姿が見えなくなった頃、血の海が遠ざかった頃、自分は直ぐ隣の彼に話しかけた。
「で、説明してくれるんだろ?」
「はい。では……」
歩みが止まらないまま、瞳がゆっくりと閉じられた。
「まずは、魔族の王である『魔王』について、語りましょう」