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『何て言うか……無様…』
もはやハッキリとした形を為さざる、その精神体を這いずり引き摺りながら呟く。
先ほどのあの状況。圧倒的に自分の方が有利だった。あの二人に対して何人もの人質と作ることができたし、何より彼らもあれでは動けなかった。あのままだったら、きっと目的は達成できただろうに。
それが出来なかったのは、新たな来訪者。こちらに来ていることが予測されたアイツともう一人のコンビに、さらに一人足されて三人。その内、足された三人目が持っていた拳銃、その中に在った銃弾。白色の、全ての『魔』に対抗しうる力。
あんなものを自分の力だけで、単なる人間が手に入れることができるワケがない。あれを作り出せるのはあの二人だけ。他の人間だとか、異端だとか…彼らには不可能なのだ。
『つまりは……向かい撃たれた、ってことかな…』
「ご名答。そうなるって分かったから、俺もあの時止めなかったしな」
ふいに、上から降ってきた声。
微かに顔を上げると、そこには金色の光。
『お前……ッ』
「あの馬鹿の体から追い出されて、すぐさま逃げたってのは良い判断だ。けどなぁ……何の対策も、人質も、考えも無しで俺から逃げれるとでも思ったのか?ハッ……だったら笑える話じゃねぇか」
彼は獰猛な笑みを浮かべ、しゃがみこんだ。
自分の顔と彼の顔が近くなる。といっても三十センチ程度。さらに言うと嬉しくない。彼の憎々しい表情がよく見えるのは気に入らないから。
「テメェにはまた眠ってもらうぜ。言い残すことはねぇか?」
『冗談……ッ…僕はまだ眠らない……何が何でも、何をしてでも…』
「出来るのかよ」
『できる、じゃなくて…やるんだ。だから……』
一旦伏せた顔を、笑みを浮かべて再び上げる。
それは、宣戦布告。
『お前は殺すよ…』
自分の言葉と共に、巻き上がる黒い炎。それは蔦のように彼の方へと伸び、絡み付こうとうねりを上げて進む。突然のことで、すぐさま行動に移ることが出来ない彼の元へと。
しかし、結局彼の元へと届くことはなく、途中で止まって崩れ去り、消え去った。
理由は酷く簡単なこと。自分が、撃たれたから。
抜け行く力を感じながら呟く。
『……あーあ、良いところだったのに…』
「君の良いところは、僕の悪いところだから丁度良いね」
『性格……悪くなってない?』
「さぁ?どうだろうね」
力を振り絞って体を起こして、銃弾の飛んできた方に顔を向けた。
いたのは、黒衣に長髪のあの人と、先ほども自分を撃った人間。
この状況は……万事休す、というのだろう。最も会いたくない三人のうち二人がここにいて、さらに、自分に対抗できる力を数量限定付きではあるが手にしている人間。一対三。普通にしていては勝ちようもない。
……ならば普通でない事をすればいいのだ。
うっそりと笑い、円をイメージする。大きくなくても良い。三人が全員入る程度の大きさの円。そして…イメージが固まった瞬間、身の内に残っていた全ての力を解放する。
現れたのは自分を中心とする、それほど大きくない黒い穴。
『アハハハハハハハ……ッ……思い出したくも無い過去の旅を楽しんでおいでよッ!』
驚き固まっている三人を、瞬時に穴は呑みこんだ。