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「あぁ……全く、貴方たちは警戒心が強すぎます。ずっとここに隠れていて…行動を起こすことが、今まで出来なかった……同じ態勢でじっとしているのは、さすがに辛いものがありましたよ」
茂みから、見たことのある人物が現れた。裂け目を作り、自分たちをこの場に連れてきた張本人。何だか良く分からない異端。
その横にアリーの姿を認め、刹那はすっと目を細めた。敵。それ以外の何者でもない相手。自分から世界を奪い、新しい世界を得るキッカケを与えた男。全ては、己の利益のために。憎々しい、という言葉では言い表すことは出来ない。ありったけの憎悪を集めても、まだ足りない。それほどまでに忌み嫌う男。
彼の方もこちらに気づいたらしく、ちらりと視線を向けてきた。が、軽く鼻で笑われて終わり。自分など小さな小さな、それだけの存在だと言われたようで、はらわたが煮えくり返るような感覚に襲われたが、グッと堪える。彼にとってはそうなのだろう。幾つか請け負った仕事の、その一つに関わっていただけの子供。
「質問がある」
「何ですか?少しくらいなら答えて差し上げても構いませんが」
まさに命が彼らの手中にある中、問いを発するティエリアはチャレンジャーだと言えよう。何も考えていないと言うことは無いだろうから、これは彼の持つ素晴らしい度胸故の行動であると推測される。
「今ここにいる異端は、俺たち以外では君だけか?」
「えぇ。まぁ……その通りです」
「もう一つ。裂け目を作って刹那・F・セイエイたちを連れてきたのも、君か?」
「よく知っていますね。貴方はその場にいなかったはずですが…」
「聞いたからな」
誰から、というのを口にせず、ティエリアは答えた。その様子に嘘を吐いている感じはなく、事実なのだと分かった。ただし、誰が言ったのかは不明。可能性があるとすればロックオン辺りだろう。
「なるほど……そういうことか」
「といいますと?」
「君は『月代』か」
聞き覚えのない単語が彼の口からこぼれる。
珍しい異端の種族だろうか?にしてもそれでは、トリニティまで訝しげな顔をしている理由が見つからない。旅をしている彼らだ、珍しかろうと知らない事は無いだろう。
ソーマは驚きに目を見張っている。おそらく、彼女は知っている。
対峙している二人の方を見ると、アリーも知らない様子だった。彼も知らず、トリニティの三兄弟まで知らない。それが差すのはつまり、珍しいどころの問題ではないということ、なのか。
「よく知っていましたね。まさか『月代』を知る人がいるとは…」
「そんなことはどうでもいい」
「どうでもいい?まさか。それで片付けることが出来る問題ではないでしょう。知られてしまったからには、そうですね……殺す、というのが最も適切でしょうか。ただ単語を知っているだけでなく、どうやら『月代』が何かも知っている様ですし」
「出来るのか?」
「状況を見れば分かるでしょう」
彼の言うとおりだった。こんな状況である。宙に浮く多くの刃からは逃げることも、避けることも出来ない。
さて、どうするべきかと考え、そっと服の上から首飾りに触れる。
これを身につけているのは、幸運ともいえる、かもしれなかった。選択肢が一つ増える。ただし……その選択肢を選べば、ソーマにトリニティの三兄弟にも被害は及ぶ。ティエリアだけでアリーを抑えることは……信じるしかないのだろうか。
考え、決めた。この状況に甘んじていても仕方がない。
刹那は、触れていた首飾りを握りしめた。