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薄暗い室内に光が差し、顔を向ければ先ほども見た二人組……幼いアレルヤと、その養い親の姿があった。男の方は若干焦っている様子、彼の方は酷く戸惑っている様子だった。これは……いつもとは違うサイクルなのだろうか…。
首をかしげていると、ハレルヤの背中から怖ず怖ずと、アレルヤが顔を出した。これは男が怖いというわけでなく、単に鏡を視界に入れるのを避けているためなのだろう。さっきこっそりと、アレが苦手と教えてくれた。にしても……一体どうして、そこまであの鏡が苦手になるのだろう。
「いつもは、あの部屋に押し込められるんです。けど、この日はその部屋を使うとかで、ここに入れられました。だから、不思議だったんです」
「んじゃ、どうしてアイツは焦ってんだ?」
「それは……見ていれば分かりますよ」
ぱたんと扉は閉められ、再び室内に薄暗さが戻る。
小さな少年は、困惑を通り越して混乱しているように見えた。おそらく、どうして何もしないままに去っていったのかと、それが分からないのだろう。それが分かって、胸が微かに痛んだ。悲しかった。
静かな沈黙と、微かな惑いが室内を満たす。
そんな時だった。青白い光が現れたのは。
光っているのは、布に覆われた鏡。
「あの鏡は……」
「ヴェーダ。眼鏡に教えんなって言われてるが…ま、ここまで来りゃ…別に良いよな。あれは使用者の知りたいと望むこと、それを教えるっつー、何とも有り難くて面倒な鏡だ。ただの道具だからな…教える情報のさじ加減を知らないらしいぜ。な、アレルヤ」
「え……あぁ、うん、そうだね…」
受け答えるアレルヤは、見るからに落ち着きが無くソワソワしていた。不自然なほどに、これから起こる何かに構えるかのように。
ピンと来る。もしかして、これから起こる『何か』が、アレルヤが鏡を苦手としている理由なのかもしれない。
見れば、ハレルヤも同様に思ったらしい。互いに顔を見合わせた。
そして、視界の端で小さな子供が布を取り去るのを認める。布という遮る物を取ったことによって、さらに溢れた青い光に照らされる顔を。
「…この後、僕は『これは何?』と思いながら触れる」
「そりゃな。鏡が光ってんだし、普通は妙だと思うだろーな」
「そして正体を知って、『あの人が今日、何をするのか』を訊いたんだ」
それは自然な流れ。全てを教える鏡の存在を知れば、真っ先にするのは『何よりも気になることを問う事』だろう。それが彼はあの男が何をするか、だった。いつもと違うことをしたあの男。では、これから『いつも違うこと』を行うのか?ならば、それは何だというのだろう?…そう思って触れるのに、変な箇所はない。苦手になる要素も、どこにも。
「結果は?」
「ハレルヤ、それは見ていたら分かるよ。というか、君は推測できているんじゃないの?」
「まぁ、俺も当事者だしな」
幼い少年が慌てて手を離し、扉と鏡を見比べて、もう一度鏡に触れた。
「あの時、僕は後付の方の『力』の使い方を教えてもらったんです」
「あぁ……あの『力』か…」
「はい。それで、僕は……外に出て、走りました」
彼が言葉を紡ぎ終えると同時に、体がフワリと宙に浮く。無重力状態。アレルヤによる重力操作の結果。
「じゃあ、また次の扉を探そうか……大変だなぁ…」
「お前が言うな、お前が。てか、お前の領域なんだから何とかしろ」
「無茶言い過ぎ……」
二人が言い合うのをBGMにして子供を見れば、彼の中から現れるかのように長髪黒コートの子供が出てきたが、もう驚きはしなかった。きっと、あの姿なら扉もすり抜けられるのだろう。だからあの姿を取った。それだけのこと。事情を知れば、なんてことは無い。