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次の扉は案外簡単に見つかった。コツを掴んだ、ということだろうか。こんなことでコツを掴んだところで、これからどういう風に役立つかは不明だが。何せ、この場所に来ること自体が希だろうから。
ドアノブへと手を伸ばし、届く間際で手はピタリと止まった。
やはり……怖いのだろうか。ここから先はなし崩しで、見たくない物がどんどん順追って現れるから。一度入れば途中で中止、などということは不可能だ。入る前に、向かい合う前に覚悟を決めなければ。真正面から向かい合って、全てを受け入れる覚悟を。
こればかりは『嫌だからやらない』というワケにもいかない。決めたのだ、二度とこういうことが起こらないようにと。そのため、過去に向かい合おうと。自ら、変化を迎え入れようと。
だから。
意を決して、アレルヤはドアノブを捻った。
大丈夫。今は一人だけじゃない。
開いた扉の中、そこは『いつもの部屋』で、その日はあの人以外に、あの人の知り合いだという大人も来ていたのだった。名前なんて物は知らないし、顔すらも覚えていないけれど。その人はあっと言う間に炭になってしまったから、覚えようもないし訊きようも無かった。
本当に申し訳ないことをしたと思う。だが、あの時の自分は頭に血が上っていて、どうしようもなく彼らが許せなかった。だからといって罪が軽くなるわけでも、許されるわけでもないだろうが。
何故なら…人を殺してしまったのだから。
そんな、自分が誰かをモノにしてしまう情景を、ハレルヤには二度と見て欲しくはないし、ロックオンにも見せたくはない。しかし、来るかどうかを決めるのは自分ではなく、二人。彼らの気持ち次第なのだ。
まぁ、そうであったとしても自分の気持ちは伝えるけども。
「できれば、二人とも残って欲しいけど…」
「俺は行くからな。お前の意見なんて聞いてやんねぇ」
「ま、そういうことだな。何より、ここまで来て置いてけぼりは無いだろ?」
返事は予想したとおりの物。予め推測済みだったので、それほど思うところはなかった。
反応をクスリと笑うに止め、足を踏み入れる。
「ここで、人身売買が行われかけたんですよ?信じられますか?」
「人身売買って……誰が、誰を?」
「んなの決まってんだろ?」
ふぁぁ、と欠伸をしながらハレルヤが口を開いた。
……そんな、欠伸をしながら言えることではないような気がするのだが…。
「あの男が、俺たちを」
「……え?」
「だから俺たち双子を。あの眼鏡は跡取りで残しときたかったんだろーが、俺たちはたんなるオマケだ。どうせ捨てるなら売っちまおうって算段だったらしいぜ。どこまでも気にいらねぇ野郎だった」
「そういうことだったんです。だから僕は順番が来るまでは物置に……けど、彼の不幸は鏡の存在を知らなかったこと…いえ、あったのは知っていたのでしょうけど、能力を知らなかった」
それは自分にとっては幸であり、不幸だった。お陰で三人バラバラになることは無かったが、代償として一生背負い続ける罪を抱くことになった。
ある意味では……『契約』を…三人をずっと一緒において欲しいという、その願いを裏切った彼だったから、相応しい末路だったといえるのだろうか?そうかもしれない。けれど、あまりそうとは考えたくなかった。人の命を奪うということは、そんなに簡単な事ではないから。