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結局、二人の戦いはグラハムの腹の虫が鳴ったところで終わった。客観的感想を述べさせてもらうと、おそらくあと数秒でも遅ければ、ハレルヤの意識はどこか遠いところへと飛んでいたことだろう。魂でないところだけは救いかも知れないが、本人からすれば似たり寄ったりに違いない。
「むぅ……腹が減っては戦は出来ぬというしな…よし、後で再戦しよう!」
「望むところだぜ……」
「せ…せめて明日にしようよ…」
ハッキリ言おう。今日中にもう一度やったら、確実に片割れの意識ではなく魂が飛ぶ。以前こういう『じゃれあい』の末、ハレルヤの魂半分ほど飛びかけたことがあったのを、果たして二人は覚えているのだろうか?
後でティエリアやカタギリにも止めるのを手伝ってもらおうと決めて、今更な事に気づく。それは、あらかじめ言っておかなければいけないことだった。
向こうはティエリアかロックオンかソーマか……とにかく誰かが話してくれていそうなので、こちらは自分が話すことにしよう。
「グラハム、あのね……」
「ん?何だ?」
「今、この屋敷の異端率が凄いことになってるんだ。で、その中にトリニティ三兄弟もいるけど……手とかは出さないでね?」
聞くところによると、あの三人はいろんなことをやらかしてきたらしい。グラハムは異端に対して理解はあるが、だからといって悪いことをする相手を放っておける質ではないのだ。少なくとも今は大丈夫だと、そこは伝える必要がある。
案の定、アレルヤの言葉を聞いたグラハムは真剣そうな表情を浮かべた……のだが、次の瞬間にはいつもの笑顔に戻っていた。
「アレルヤが言うのならそうさせてもらおう。公平なジャッジが出来ない君ではないだろうからな」
「うん……ありがとう」
そう言い終えると、突然の浮遊感に襲われて少しだけパニック状態になる。
が、直ぐに理由を把握することになった。
グラハムに担がれていたのだ。もっと正確に表現すると、彼の右肩のあたりに座らされていたのだ。
バランスを取るべく慌てて彼の頭を掴むと、笑い声が聞こえてきた。
「笑わないでよ…」
「すまない。やはりアレルヤは可愛いと思っただけだ」
「グラハム……テメェ、今のアレルヤにそれ言ったら、間違いなくロリコン扱いだぞ?」
「それは困るな……私は単なる、センチメンタリズムな運命のもとに集う乙女座の騎士でありたいのだが」
「ンなモンになるくらいなら、むしろロリコンになれ!」
何だそのワケ分かんねぇモン!
そう言ってツッコミを入れるハレルヤを、しかしグラハムは、はっはっはと笑って相手にしない……というか、どうして突っ込まれているのかすら分かっていないようだ。
彼らしいと思って笑うと、ふいにグラハムの笑い声が止んだ。
何?と思って彼の顔を見ると、そこにあったのは不思議そうな顔。
「どうかした?」
「いや……笑みに、少し翳りがあるようだと思ってな」
「それは……」
それはそうだろう。何と言っても、全ては昨日のことである。昨日の今日で、一晩で起こった事柄について消化していこう、というのは無理がある。
しかし、いきなりそれを話すべきだろうかと迷っていると、だが、と彼は言葉を続けた。
「どこか、以前よりも自然な笑みになったな」
「……そう?」
「嘘は言わんよ。翳りがあろうと、今の方が良い」
和らいだ表情を浮かべる彼を見て、少しはにかむ。面と向かって言われるのは気恥ずかしかったが、同時に嬉しくもあった。