[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
149
ティエリアに引き摺られてアレルヤが食堂から退場して数分が経った。
その間中、ネーナはどうにかしてパーティのお供とやらに入れてもらえないだろうかと、頭を回転させていた。普通に頼んで良いときもあるだろうが、相手はあのティエリア。警戒するに越したことはないだろう。
どうして連れて行って欲しいかというと、それはもちろん『パーティだから』である。そういう場所に行くなら、綺麗なドレスを着ることが出来るし、何より出てくる食事は美味しいに違いないからだ。ハレルヤでさえそう形容していたのだから、味の保証は確か。
さて、どうしようと思いながら、グラハムに抱きしめられている刹那を眺める。
グラハムの方はハートマークを飛ばすくらい熱烈なのだが、残念なことに刹那は違う。不機嫌そうな顔でされるがまま、だ。抵抗くらいすればいいと思うのだけど、体に上手く力が入らないらしい現状を見ると、それは難しい注文かもしれなかった。
……というか、まさかグラハムがこの家の関係者だとは思わなかった。狩人たる彼と、問題行動を起こす異端たる自分たちは何度か出会ったことがあるし、戦ったこともある。なのに両方とも生きているというのは奇跡に近い。普通、戦闘はどちらかが死ぬまで続く物なのだが……色々な要因が折り重なって、今日に至る。
…結構ラッキーだよね、私たち。だって生きてるんだし。
そう心の中で呟くと同時に、騒々しい声が聞こえてきた。
何?と顔を上げてみれば、扉の辺りにティエリアの姿を確認できた……が、アレルヤの姿はない。叫びながら何かを引っ張っている屋敷の主の様子を見ると…引っ張られているのはアレルヤなのだろうか?彼の声も聞こえ……ていない?
え?と首をかしげると、先ほどよりもハッキリと会話が聞こえてきた。
「いい加減諦めろ、アレルヤ・ハプティズム!いいか!?関係者は固まっていた方が良い以上、パーティには全員を連れて行かないといけないんだぞ!?したがって、隠していようと君のその姿は全員に見られることになる!」
「そうだとしても、あまり僕は見せたくないんだよ!いつもみたく小さくなったり髪型変えたり肌の色変えたり目の色も変えたり身長を低くしたり服をお手軽に変更するのより抵抗有るんだからコレ!いっそティエリアが変わっちゃえば良かったんだよ!」
「小さくなると身長を低くするのは同じだろう!?」
「気分の問題だよ!ていうかやっぱり今見せる理由無いし!」
片方は絶対にティエリアの声だ。口パクのタイミングも声の低さも同じ。
だけれど、もう片方はアレルヤのものではなかった。話している内容から、喋っているのは彼だと分かるのだが……いつもよりも確実に高い。
どういうことだろうと考え、そういえば彼は変身とか色々出来たなぁと思い出した頃。
「いい加減に諦めろ!」
「うわぁっ!?」
扉が影になって見えなかった二人目の姿が、見える位置にまで引きずり出された。
そして、引きずり出された『女性』はキッとティエリアを睨んで、それからこちらへと歩いてきた。正確に言うとソーマの方に。
「お疲れ様です、アレルヤ。しかし…今、店に来なくても良かったのでは?」
「そうだけど、むこうの部屋で変身後の姿の微調整っていうか確認してたらさ…」
「終わったときに、無理矢理引きずり出されたと?」
「……まぁ…そういうこと」
だけどやっぱり理由が見つからないよ全くどうしてこんなこと…と、ブツブツと言っていた女性……になっていたらしい腕を組んでいたアレルヤは一瞬の後、すぐに元の姿に戻った。今の刹那よりも不機嫌そうな顔を見ると、どうやら本気で嫌だったらしい……なんとなく気持ちは分かる。女装ではなく、本当に女性になるのは抵抗が……いや、どっちも当然抵抗はあるのだろうけど。
これは……多分、例のパーティに向けての下準備。ティエリアが婚約者とか結婚相手とか、そういうのを作るとは(少なくとも今は)思えないので、そういう事態を回避するための行動なのだろう。
そして、こういうことは今までにも何度かあったようで……アレルヤの苦労が忍ばれるというもの。ハレルヤに言っても聞かないだろうから、自然とそういう役は彼に回るのだろう。自分やソーマ、ルイスに頼まないところ…何か分かる気もする。気にいらないけれど、何となく納得だ。
色々出来ると、こういうときに使われて大変なんだなと思いながら、ネーナは新しいデザートに手を伸ばした。