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「屋敷の人たち……全員出たかな?」
「恐らく。気配が消えた」
庭園風の庵で、エクシアとキュリオスは石造りのベンチに座っていた。デュナメスとヴァーチェは何か使える物や場所が無いかと、この庵の散策中である。
そして今現在、多分、屋敷の人々も居ない。
ということは、つまり……チャンスである。
「キュリオス、外に出てみないか?」
「……え?けど…良いの?」
「刹那もアレルヤも『いなくなったら出て良い』と言っていた」
「うん、そこは覚えてるよ。じゃなくて、二人をおいていっていいの?ってこと」
後で怒られないかなぁ……残っていた方が良いんじゃないのかな?という表情を浮かべているキュリオスは本当に頼りなさげで、思わず無条件で彼の言うことに頷きそうになるほどの力を秘めていた。
……にしても、その事実をキュリオス自身が知らないのは如何なる物だろうか。
だが、だからといって諦めるエクシアではない。
外に出たいという欲求はどんどん強くなり、興味と好奇心が織り交ぜられた気持ちは止まることを知らない様子で。つまりはまぁ、折角出れるのだから出たいという気持ちが強すぎて、制御も無視も出来ないワケだ。
そこは程度の差こそあれキュリオスも同様のハズだと、エクシアは確信していた。普段は引っ込み思案で人見知りが激しくて気が弱すぎるほど弱い彼の正確故、そんな行動を起こすことはないだろうと推測はされるが……生憎、今回は一人ではない。
こんな状況で、彼も耐えることが出来るだろうか?
悩んでいる様子のキュリオスを黙って見つめること数秒。
オレンジ色の人形は、くくった髪を揺らしながらもこくりと頷いた。
「……分かったよ。けど、」
「あぁ。二人には内緒だ」
「それから、早く帰ってこようね」
「そうだな」
…そのくらいの条件が妥当な物かと、エクシアも納得する。帰還が遅ければ遅いほど、見つかる可能性も高くなるわけだし。
では、と石のベンチから下り、扉へと向かって少し高い位置のドアノブに手を伸ばす。
開いた先は、移動する際に一度見たことのある薄暗い廊下。
そこに降り立ってキュリオスをエスコートして、そこに位置をしっかりと確認してから扉を閉じる。
本来なら一定条件をクリアしている誰かしか入れないらしい場所。扉を閉じて良いのかと訊かれれば普通は否。だが、自分たちには『お守り』があるから、問題は無いのだ。
別れる際にアレルヤが微笑みながら、繋いだ手を通して送ってきた暖かな『何か』。
それによってだろう、自分たち人形と刹那は、庵への出入りが可能となっていた。
他にも自由に出入りできる存在が数名いるそうだが、そこは自分たちの知り及ぶ所ではないだろう。知る必要が在れば、そのうち知ることになる。
「えとえと……どこに行く?」
「台所からだな。呼ばれるまでの食事のためにも」
「そういえばそうだね。……なんて言うか、人形なのに食べ物が居るって、少し不便かな」
「違いな、」
歩きながら答えようとして、しかしエクシアの言葉は歩みと共に止まった。
そこに、二つの球体が居たから。
片方はオレンジ色で、片方は紫色。紫の方が目つきが悪いのは絶対に気のせいではない、が……オレンジの方から、並々ならぬ気配を感じるのはどうしてだろう。
相手も動かないから、こちらも動けない。
エクシアとキュリオス、オレンジと紫の球体は、しばらくの間何をするでもなく、ただただ見つめ合っていた。